「産業医として働く」ということで言いますと、大まかに言って、一つの企業で常勤の専属産業医として働くのと、非常勤で嘱託産業医として働くという2つの形態があります。
簡単に言ってしまえば、「常勤」ですと雇われている企業に出勤してそこで働くことになるわけですが、非常勤ですと「月1回、開業医の医師が企業に安全衛生委員会や職場巡視のために訪問する」といったイメージです(中には、いくつもの企業を掛け持ちして、産業医の仕事を専業とされている方もいます)。
認定産業医になるための単位集め
まず基本的なところからですが、産業医になるためには「医師免許」だけではダメです。産業医になるための要件があり、一般的な勤務医の方を想定して言いますと、最も現実的な方法は「日本医師会認定産業医」になることです。
よって、現実的には「認定産業医」なることをひとまず目指しましょう。この認定産業医になるためには、指定の講座を受講して
・前期研修:14単位以上
・基礎研修会 実地研修:10単位以上
・後期研修:26単位以上
=合計 50単位以上
「50単位」が必要になります。この50単位を取得する上で、最も効率的な方法は次に示すような「集中講座」を受講することです。
こちらの記事や、私のXアカウント(村上文春@産業医になろう)に随時、受付日時やスケジュールなどについて情報を更新していきますのでチェックしていただけますと幸いです。
勤務しながら、この集中講座のスケジュールを捻出するのもまた大変です。私の場合、後期研修医の貴重な夏休みをこの集中講座に当てました(悲)。集中講座の予約が取れたら、すぐに医長などに相談してスケジュールを確保するようにしましょう。
認定産業医になるための申請
受講が終わって50単位を集めたところで、それだけでは認定産業医になることはできません。単位を全て集めることができたら、最寄りもしくは所属する医師会に、「認定産業医になるための申請」を行いましょう。
申請については、以下のことが必要です。
1) 以下の所定の書類を集める。
・認定産業医新規申請書(医師会にあります)
・医師免許証の写(医師会員は不要)
・50単位分のシールを貼った産業医学研修手帳(Ⅰ) or 産業医科大学産業医学基本講座修了認定書、産業医科大学産業医学基礎研修会集中講座修了認定書2) 印鑑(書類作成のために必要) を持って、所属もしくは最寄りの都道府県医師会に行き、所定書類の提出、登録料(1万円)を支払う。
なお、日本医師会のHPによりますと、「単位」にも有効期限があり、「基礎研修最終受講日から5年以内に1回限り申請できます。ただし、50単位修了後、出来る限り速やかに申請して下さい」と記載がありますので、集めたらできるだけ早めに申請を行いましょう。
転職活動を開始する前に
転職活動においては、「悩む」ことの連続であると思います。実際、私も転職活動を始める前においても、「本当に転職をしていいのだろうか?」「どんな転職をすればいいのだろうか?」「今後のキャリア形成はどうしよう…」などといったことを延々と悩み続けました。
ですが、転職をするにしても、やめるにしても、いずれにせよ踏ん切りをつける必要があります。この章では、転職活動を始めるにあたって、どのようなことを考えるべきか、どのようなことを確認するべきかといったことをお示ししたいと思っております。
若手医師の内に転職しておくことのメリット
「産業医は年とってからもできる。若い今の内に、臨床医としての経験を積んでおくべきだ」という意見をいただくこともあります。
「常勤産業医は、勤務医が定年間際にやるもの」というイメージもあってか、若手医師は転職を躊躇う傾向にあるでしょうし、私自身も悩みました。実際、後期研修医の時に転職した私としては、以下のようなメリットがあると考えています。
・「未経験+高齢」での転職の難しさ:産業医未経験の場合、他に産業医がいて指導できる、教育体制があるところの方が勤務しやすいと言えると思います。しかしながら、ベテラン医師を雇う場合、「統括産業医の方が年下」「指導する側が年下」ということも起こり得ます。
採用する企業側も、「既に勤務している産業医や保健師」との相性や関係性を気にするので、やはり既存スタッフとの「年齢差」があることで採用見送りということも起こりうると思います。
・ベテラン医師の年収問題:平たく言ってしまえば、企業側の考えとしては、「産業医の年収=コスト」ということになります。本音で言えば、「コストはあまりかけたくない」というところであり、そうした観点で考えれば、年収が高くなりがちなベテランドクターは採用を見送られる傾向にあります。
・採用コストの問題:産業医を雇うにもコストがかかります。その点、「一度雇ったら、長く働いて欲しい」という希望が企業側にはあります。至極簡単に言ってしまえば、「年齢が高い医師=勤続年数が短くなる」ということになりやすく、その点で言えば「若手産業医の方を雇いたい」という希望が企業側にはあると思います。
・社員の年齢との兼ね合い:ベテラン医師が産業医になる場合、やはり雇う企業の社員側からすると、「仕事を頼みづらい…」「相談したいけど、気軽に声をかけていいものなのだろうか…」と思う可能性もあります。若手医師の方が「気軽に相談しやすい」という傾向にはあると思います。その点、若手の方が採用されやすいと言えると思います。
・ライフステージの問題:結婚をして、子供が生まれるというライフステージの変化に伴い、やはり「転職」、特に家庭内において「勤務医から産業医へ」という転職の理解を得ることはハードルが高くなります。この点、中高年医師よりも若手医師の方が転職をしやすい、という傾向にあると思います。
転職活動STEP1 求人紹介会社選び
認定産業医の申請を行い、その資格が認められるまでには時間がかかります。そのため、もし常勤産業医に転職予定ということでしたら、申請したと同時にぜひ転職活動も平行して行いましょう。ちなみに、私も認定産業医の登録が済む前に転職活動を行い、入職するまでに登録番号は分かっていましたが、証書はまだ届いていない状態でした。つまりは、その状態でも転職は可能です。
コネもなく、かつ産業医未経験の方が自力で求人を見つけて入職するのはほぼ不可能です。実際、私もやろうとしましたが当然できず、なんとも無駄な遠回りをしてしまいました。
産業医未経験の方が転職活動をするなら、迷わず求人紹介会社に登録して、転職エージェントのサポートを受けるべきであると思います。医師の側は無料で利用できますので、まずは相談だけでもしてみてはいかがでしょうか。
もし「おすすめはありますか?」と相談されたなら、私は「リクルートドクターズキャリア[PR]」を迷わず挙げます。
大手で母体となる企業がしっかりしており、なおかつ求人数も多く、転職エージェントも非常に相談しやすく、問い合わせにもすぐ対応してもらえました。
実際、私は3回の転職を経験しておりますが、内定がもらえたのはほとんどこのリクルート経由です。その信頼もあり、毎回リクルートドクターズキャリア[PR]に求人紹介を依頼しています。
私の転職活動での失敗 「自力」の限界
私の場合、地元で産業医の求人がないか探そうとしていました。そこで、「(地元のエリア)+産業医+求人」などでキーワード検索を行い、求人探しをしていました。
ところが、今なら分かりますが、そのような北関東の田舎の地域では常勤産業医の求人はほとんどなく、ようやく求人がヒットしても「経験者のみの採用枠」とのことで書類選考にすらたどり着けませんでした。
そのため、「やっぱり未経験な上に、コネもない私が産業医になるのは難しいのかな…」と思って半ばあきらめてしまいました。結論から言えば、「少し通勤エリアを広げれば応募できる求人数は増える」わけですが、そのことに気づけませんでした。
こうした時間と労力の無駄をしないためにも、「自力で求人を見つけよう」などとは思わない方がよろしいかと思います。
求人紹介会社への相談で医師側には「デメリットはない」
医師が求人紹介会社に相談をして、求人紹介を受けることでの料金は発生しません。さらに言えば、求人紹介から採用面接のサポート、求人先との折衝・交渉、雇用契約書のやりとりまで面倒を見てくれます。
こうした求人紹介会社への相談を躊躇う人の意見として、「こちらの希望条件や意向を無視して、しつこくゴリ押しされるのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、少なくともそうしたゴリ押しを私は受けたことはありません。
また、「しつこく連絡してくるのでは?」という人もいますが、基本的にはメールでのやりとりで、電話での相談というのもほとんどありません。また、自分のペースに合わせてくれるので、仕事が立て込んでいる時に煩わしい思いをしてしまうということもないと思います。
ですので、思いつく限り転職を考えている上で「メリットはあれど、デメリットはない」ということではないかと思います。もし転職をお考えということでしたら、真っ先に「まずは求人紹介会社に相談してみる」のが私としてはおすすめだと思います。
信頼できる転職エージェントの見極め方
求人紹介会社の転職エージェントの方も、大変失礼ながらピンキリであり、「信頼できるなぁ」と感じる方もおられれば、「うーん…ちょっと合わないかもなぁ」と思う方もいます。
そこで、私が「信頼できるなぁ」と感じた転職エージェントの方の特徴としては、次のようなポイントがありました。
・ポイント1 レスポンスの早さ:登録してからの連絡、求人についての問い合わせに対する返信の早さなど、やはりレスポンスの早さは重要な要素だと思います。
・ポイント2 「提案力」がある:希望条件に沿った求人だけでなく、少し条件を変えることで、より好条件な求人がある場合もあります。そうした提案をしてくれることも大事です。
・ポイント3 「欠点」も伝えてくれる:求人の良い面ばかりではなく、悪い面も伝えてくれて、しっかりと判断材料を与えてくれるということです。
・ポイント4 停滞期での対応:転職活動が思うようにいかず、停滞している時に連絡が途絶えるのではなく、寄り添ってまめに連絡をくれる転職エージェントはやはり信頼できます。
・ポイント5 ミスやトラブルでの対応:ミスやトラブルで、誤魔化すのではなく事情を説明してくれるなど、真摯な対応をしてくれるかどうかも大事なポイントです。
転職活動STEP2 転職エージェントに相談
転職エージェントに希望条件を伝えることで、求人紹介をしてもらえるわけですが、その相談では
・転職の目的(勤務医から常勤産業医への転職)
・どのような企業への転職を希望するのか(企業の業種、規模など)
・今までの経歴
・通勤可能圏(自宅からどの範囲か)
・希望年収
・週の勤務希望日数(週4日や5日など)
などを質問されることがありますので、事前に考えておくとスムーズに相談が可能であると思います。
なお、「通勤可能圏」は結構重要です。常勤の産業医を置かねばならないような大企業は基本的には大都市圏に偏っておりますので、関東近県だったら「東京への通勤」などを考える必要もあります。
また、「産業医未経験」ということですと、エントリーできる企業の幅が狭まるのはたしかです。そのため、希望条件を優先するよりは「まずは経験を積む」ことを優先する必要がある可能性もあり、その点はある程度覚悟しておかなければならないと思います。
転職エージェントとの面談前にすべき準備
転職エージェントとの最初の面談・打ち合わせは、求人紹介の方針を決める大事な話し合いになります。ですので、医師側もあらかじめ、しっかりと要点をまとめて転職エージェントに伝えることが必要となってきます。
そこで、面談前の準備として以下のポイントを押さえておくといいと思います。
・転職の目的→希望条件の順に考える:まずはしっかりと転職の目的を決めましょう。「何を目的とした転職なのか」を決めておかないと、軸がブレてしまいます。その軸となる目的が決まったら、その目的に沿った「希望条件」を考えていきます(年収、勤務日数、当直やオンコール回数、外来担当コマ数など)。
・希望条件の優先順位を決めておく:全ての希望条件を兼ね備えた求人というのはほぼありません。そこで、それぞれの条件について、「マストの条件」「あったら嬉しい条件」「あまり優先順位の高くない条件」などに分類して、濃淡をつけて取捨選択をすることが必要となります。その優先順位を転職エージェントに話すと、伝わりやすいのだと思います。
・先入観はNG:「こんな条件の求人はないだろうな」「まだ若手だし、好条件な求人なんか無理だろうな」という先入観はNGです。まずは現実問題、求人が存在しているかどうかに関わらず、上記の目的・希望条件をしっかりと準備した上で、まずは転職エージェントに伝えてみましょう。「思ったより好条件な求人がある」という感想を持つことも稀ではありません。
私の転職活動での失敗 「本心」を隠すことの無意味さ
私はついつい転職エージェントに「本心」を隠してしまい、腹を割って相談することがなかなかできませんでした。
転職の目的や希望条件などについて、「これを伝えたら、『若いくせに…もっと働けよ』『そんな求人あるわけない、世の中を舐めてるんじゃないの?』なんて思われるんじゃないか」などと、ついつい思ってしまって本音の部分は隠して相談をしていました。
ですが、その結果「ピントがズレた求人の紹介」になってしまいました。それはそうです。私が伝えている希望条件が本心ではないため、私の希望とはズレるのは当然のことです。
ですので、それからは私が希望条件を伝える際には、「週3~4日勤務、年収は1千万円以上、都心のこのエリアで駅チカ」など、具体的に言うようにしています。「ハッキリと希望を伝える」というのは、相談する上でとても大事なことです。
実は「0次面接」である点にも注意
転職エージェントとの相談は、対面、オンライン面談、電話などのケースがありますが、基本的には「メールのみ」ということはありません。
というのも、やはり求人紹介会社の側も「一体、この先生はどういう人柄なんだろう?」というところを知りたいはずです。人柄に問題のあるドクターを、求人を出している企業に紹介はやはりしたくないわけです。
もし転職エージェントとの面談などで、横柄・礼儀を欠くような態度や言動をしたような場合、「求人を紹介してもらえない」可能性もあると考え、礼節をわきまえ、服装も社会人として恥ずかしくない格好をしていきましょう。
つまりは、「企業の1次採用面接の前の0次面接」と考えて転職エージェントには接するようにしておいた方がよろしいかと思います。
「産業医の転職に強い」は本当か?
求人紹介会社の中には、「産業医の転職に強い」「産業医の転職を専門でサポート」と謳っているところもあります。
実際、私もそのような求人紹介会社に登録して、求人紹介や転職サポートを受けたことがあります。その結果どうだったのかと言いますと、「他の会社と変わらない」というのが正直な感想でした。
まず求人の数や内容ですが、これも他の大手の会社と変わりありませんでした。その理由は、企業の産業医採用担当の立場で考えれば分かると思います。
企業の産業医採用担当の社員みんなが、「産業医の転職に強い」ということで求人紹介会社を選ぶとすれば、求人に偏りがあるはずです。ですが、現実はそうはなっていません。それは、採用担当がそうした謳い文句を鵜呑みにするのではなく、「大手で安心な会社だから」「費用を他社と比較した結果」などの理由で利用する会社を選定しているからだと思います。
こうした理由から、求人に差はないわけなので、転職エージェントの在籍数や質を重視して、大手の求人紹介会社であるリクルートドクターズキャリア[PR]などにまずは登録をしておくことをおすすめします。
「非公開求人」は本当にある?
「非公開求人が多い」と謳っている求人紹介会社もあります。「非公開求人」とは、一般的にホームページなどで紹介していない求人のことを指すと思われますが、今の時代、「たとえ企業名は伏せても、ネットなどで公開募集はしないでくれ」という会社はほとんどないのではないでしょうか(秘匿する意味がないでしょうし)。
また、言ってしまえば「非公開求人」だとしても好条件であるとは限りませんし、結論としては「ウチは非公開求人、多くありまっせ」という謳い文句で「登録しておこう」と思う必要はないと思います。
一方で、「非公開求人」は全く存在していないとは言いません。新着の求人で、転職エージェントが「ネットに公開する前に、担当しているドクターにだけ先に教えておこう」という求人は実際にありまし、私自身、教えてもらったことがあります(その求人が、今、私が入職している企業です)。
いずれネットで公開するわけですが、「とりあえずのところ今は非公開となっている求人」という意味の非公開求人はあると思います。そうした求人をいち早く教えておいてもらうためには、転職エージェントとしっかりコミュニケーションを事前にとっておく必要があると思います。
転職活動STEP3 求人選び
希望条件などを伝えた上で、求人を紹介してもらうと、その希望条件に該当した「求人票」が複数メールで送られてきます。その「求人票」の中から、応募したい求人を選ぶことになります。
基本的には、産業医未経験であっても応募できる求人がそこには記載されているはずです。ただ、求人票を見ても基本的、最低限のことしか書いていないことがほとんどで、初見だと「どの求人に応募すればいいんだろうか…とりあえず、年収の最も高いここか?」といったことになりがちです。
そこで求人選びでは、以下の6つの点を順に見ていくことをおすすめしています。
1) 年収・昇給の有無
2) 雇用契約は嘱託?正社員?
3) 勤務日数・時間・社会保険
4) 交通費支給
5) 産業医・保健師の人数
6) 「求人票」に表れにくいポイント
詳しい説明については、以下の記事
に記載しておりますので、ぜひお読みいただければと思います。
勤務医の転職活動と異なる「産業医独自」の求人選びでのポイント
勤務医の転職活動と、産業医の転職活動は大きく異なる点があります。特に求人選び、求人票でチェックすべき内容については違いが大きいと思います。
そのチェックすべき内容とは、以下の3点だと私としては思っています。
・社員数、産業医、保健師:企業の社員数や、自分の担当する社員数は業務量にも関わってきます。また、その企業の社員数を反映するように、産業医と保健師の数は増減します。さらに、産業医、保健師の数の多さによっても人間関係という面で働きやすい環境か否かは変わってきます。
・担当する支社、関連会社の数や位置:担当している支社や関連会社に、安全衛生委員会出席や職場巡視で出張しに行くことになります。この場所や担当する会社の数によっても移動の大変さは変わってきます。入職前にこのあたりはぜひチェックしておきたいところです。
・給与制度:入職した段階から給与が固定となっている企業もあれば、毎年昇給していく企業、あるいは「働きぶりを評価」することで給与が変わってくる企業もあります。それぞれメリット・デメリットはあると思いますが、このあたりはしっかりと意識した上で入職しておく方がよろしいかと思います。
「フィードバック」の重要性
転職エージェントから求人票が送られたきたら、ひとまずその求人票を見た感想についてフィードバックをしましょう。なぜそのフィードバックが必要かと言いますと、主な目的は「希望条件に対する自分と転職エージェントのズレを修正する」ことにあります。このズレは、複数ある希望条件の中で、「優先順位」が双方で異なっていると起こりやすくなります。
ですので、「私の希望としては、このA社の求人が最も近いです。ただ、年収1千万円以上、週4日勤務という条件はマストであり、週5日勤務という点が異なっています。また、通勤時間は最寄り駅から45分程度としたいと思っており、この点もやや異なっています」といった形で、フィードバックしましょう。
さらに、こうしたフィードバックを行うことで、転職活動への「本気度」を伝えることもできます。冷やかしでないと分かれば、新着求人があった場合、優先的にネット掲載前に教えてもらえることもあります。
フィードバックは、「あんまり良い求人がないなぁ…」という時こそ重要です。食指が動かない求人ばかりということですぐ「別の求人紹介会社に乗り換えよう」というのではもったいないです。フィードバックをしてみて、その反応がどのようなものかというのを見てからでも、他の求人紹介会社にアプローチするのは遅くないと思います。
産業医転職で気をつけたい「落とし穴」
私が産業医での転職をした際、「失敗したなぁ…」「入職前に調べておくべきだった…」と思ったことがあります。いわば求人選びでの「落とし穴」となる部分ですが、産業医の転職経験がないと、なかなか気付けないものです。
以下の点については、しっかりと転職する前に調べておいた方がいいと思う部分です。
・産業医の在籍人数:企業の規模(社員数)によって産業医の在籍人数はそれぞれ異なります。それによって業務負担も変わってきますし、特に未経験者だと「先輩産業医に相談できる環境かどうか」というのは、求人選びで大きなポイントとなります。
実際、私も産業医一人体制の企業に初めての転職で入職しましたが、やはり勝手が分からず苦労した部分も多かったです。
また、「医師年数≠産業医経験年数」であることにも注意しましょう。「年配の先生で、産業医経験も多いんだろうな」と思いきや、「実は定年間際に産業医になったんだよね」という人もいますので、特に未経験のドクターの場合は求人選びで注意した方がよろしいかと思われます。
・社会保険の有無:企業によっては、「社会保険 無」ということもあります。それはつまりどういうことかと言いますと、割高な「国民健康保険に加入しなければならない」ということになります。
週3勤務で、なおかつ勤務時間が短いという場合はこのようなこともあり得るので、注意が必要です。「社会保険は必ず加入させてもらえるもんだろ」と思っていたところ、実はこのようなこともあるため、まさに「落とし穴」となるわけです。
・祝日、土曜出勤、研究日:祝日も工場が稼働している企業ですと、「祝日も勤務」というところがあります。その場合、産業医も出勤する必要が出てきます(工場カレンダーというものがあり、出勤はそれに従う、という説明がされているところもあります)。
他にも、土曜出勤をしなければならない企業(代わりに平日休みがあったりもしますが)もあり、注意しておく必要があります。
あと、週4日勤務で「平日の1日は研究日がとれる」となっていたとしても、他の産業医が研究日をとる兼ね合いで、金曜での研究日を希望していても、「木曜と金曜以外で研究日をとってください」と指定されることもあったりします。
・支社・関連会社訪問について:本社勤務というだけでなく、支社や関連会社へ月1ペースでそれぞれ訪問するということも求められることはあります。その場所が近隣であったり、あるいは交通の便が良い場所にあればいいのですが、「電車、バスをいくつも乗り継いでいく必要がある」「意外と歩行距離が長くて大変」という場所の支社・関連会社に行かなければならないということがあったりします。
産業医の転職で重要な「3つの軸」の人間関係
産業医の転職において、人間関係は「3つの軸」で捉えておくことが重要であると思われます。この「3つの軸」とは、次のようなものです。
・産業医同士での人間関係:そもそも産業医一人体制であればこの人間関係に悩まされることはないでしょうけども、複数人体制ですと、統括産業医と平産業医、そして先輩・後輩といった人間関係があり、場合によっては悩ましい人間関係となりうることもあります。
産業医として未経験や経験が浅い内は、先輩産業医がいることで相談できたり、あるいは企業からの相談事や厄介事を引き受ける「盾」になってくれることもあり、できれば複数人体制の企業の方がおすすめだとは思いますが、その一方で人間関係に悩まされる可能性もあります。
・保健師との人間関係:産業医・保健師との人間関係もまた、こじれると厄介なこともあります。このあたり、保健師さんのキャラクターや経験年数(ベテランかどうか)、自分との相性にもよる人間関係となります。
・人事労務担当者との人間関係:面談を依頼されたり、あるいは面談後のフィードバックを行うなど、人事労務担当者との関わりは多く、また人事の課長や部長が「実質的な産業医の評価を行う上司」となりうるケースも結構多いと思います。そのため、このあたりの人間関係がどうか、ということも働きやすさに大きく関わってくると思います。
転職活動の具体的な流れ
さて、ひとまず応募する求人が決まったとします。その意向を転職エージェントに伝えますと、「では、まず書類選考に応募します」という流れになります。
産業医の選考で言いますと、
1) 書類選考
↓
2) 1次面接
↓
3) 2次面接
というステップになります。履歴書を送り、書類選考を通ったら採用面接に臨む運びとなります。
採用面接については、
こちらをご参考にしていただければ十分に対策できると思います。ポイントとしては、
・「一次面接と二次面接の違い」を理解
・産業医の採用面接でよく4つの質問対策
・「履歴書・職務経歴書」で自分の弱点を洗い出す
・個別の企業対策
となっています。
想定質問・回答集を作るとしたら、
こちらの記事をご参照していただけますと幸いです。
採用面接のポイント1 重要な「協調性」
求人票を見ておりますと、希望する産業医像のところで「人事や保健師と協調性をもって勤務できる方」「社員や保健師とコミュニケーションをしっかりととっていただける方」といったことが記載されていることがあります。
企業にとって、「人間関係が原因で仕事が上手く回らない」ということは困ってしまうわけです。もっと言えば、「雇った産業医が原因で、引っかき回されたり、振り回されることは御免被りたい」というのが本音のところだと思います。
そのため、保健師や人事労務担当者と「関係性をしっかりと築いて、コミュニケーションをとって働ける人物かどうか」というところは採用側も注意深く見る傾向にあると思います。
採用面接のポイント2 医師としての「特別意識」をなくせるか
企業側としては産業医に、平たく言えば「色んなことを頼みたい」「困った時に助けてもらいたい」という希望があるわけです。ところが、「社員ではなく医師」ということで距離感、隔たりを感じてなかなか「頼めない」ということもあるようです。
そのため、「良い意味で、医師としての特別意識がなく会社の一員になってくれる人物」であるということもまた、重要なポイントだと思います。
つまりは、「二つ返事で会社のために仕事を引き受けてくれる、困った場面で助けてくれる」という印象を持ってもらえるかどうかということが、面接での成否を分けてくるのではないでしょうか。
採用面接のポイント3 なぜ産業医になりたいのか?
必ず採用面接で聞かれる質問が、「なぜ産業医になりたいと思ったのですか?」というものです。この質問には、「なぜ臨床医ではなく、産業医なんですか?」「産業医になって、どのようなことがしたいのですか?」「産業医になるのに、どれほどの熱意を持っているのですか?」といった意味合いが実は含まれています。
ですので、「こんな理由で、産業医になりたい」とアピールする上で格好の質問となっています。逆に言えば、その質問で「空振り」してしまうと、採用のチャンスを失ってしまうことにもなりかねません。
だからこそ、その重要な質問に対して、しっかりと回答を練っていかないのはみすみすチャンスを捨てているようなものです。他の質疑応答の内容を用意するよりも先に、まずは「なぜ産業医になりたいのか」について話をまとめておくべきであると思います。
採用面接のポイント4 「棚卸し」の重要性
今までのキャリアを振り返り、どのような仕事をしてきたのか、どのような経験を積んできたのかということを整理しておくことをキャリアの「棚卸し」と言ったりします。
採用面接の場で、この「棚卸し」をしっかりしていたかどうかで大きな差が出てきます。自分のことを紹介する際、あらかじめまとめておかないと十分にアピールできない可能性があるわけです。
また、臨床医から産業医になる場合、「今までの臨床医としての知識や経験が、どのように産業医として活かせるのか」という視点で見直しておく必要があります。ですので、採用面接前には、「棚卸し」をしっかりとしておくようにしましょう。
採用面接のポイント5 おすすめな「企業情報」の収集方法
採用面接を受けるに当たって、「初めて知った企業」ということもありえます。その場合、「少なくとも企業のホームページぐらいは見ておこうよ」となるわけです。
「弊社のことをご存知ですか?」「弊社の仕事内容はご存知ですか?」と質問されることもあります。また、その他の質疑応答においても、「企業側が求める回答」を考える上でも、企業情報は重要です。
そうした企業情報を入手するため、私としては以下のようなところは少なくとも見ておくべきであると思います。
・(企業のHP)企業概要と事業内容:少なくとも、どのような企業であり、業種は何なのか、事業内容(何で儲けているのか)というのはチェックしておきましょう。また、どのような規模(社員数、グループ会社の有無、支社数)の企業なのかということも、入職してからの業務量に関わってきますので、ぜひチェックしておきたいところです。
・(企業のHP)トップメッセージ:企業のトップのメッセージは、「どのような理念を持っているのか」「今後、目指すものは何なのか」といったことが語られていると思います。そのようなことを覚えておき、「弊社を志望された理由は?」と質問された時に、「◯◯という理念に共感をしたからです」といった形で利用することもできるので、ぜひチェックしておきましょう。
・(企業のHP)IR情報:投資家向けの情報であり、その企業の経営状況・財務状況・業績動向などの情報が掲載されています。「ウチはこんな魅力がある企業なんですよ」というアピールしている情報でもあるわけで、その点も採用面接での情報として使えると思います。
・(企業のHP)採用情報:企業のホームページには、「こうした人材を歓迎したい」という採用情報を掲載していることもあります。「求める人材」は、「社風」を反映している部分もあり、産業医として応募する上でも「社風に自分が合っているのかどうか」という指標にもなると思います。また、採用面接での質疑応答で、「こういう人材が欲しいんでしょ」とアピールすることにもつなげられると思います。
・就職、転職口コミサイト:こうしたサイトには、退職者が「企業のネガティブな面」を書いていることもあります。それはつまり、「退職者を出してしまう、企業の悩みどころ」を反映したコメントでもあるわけです。企業が現在、どのようなことに困っているのか。それに対し、産業医としてどのように関わることができるのか、ということを考える上で有用であると思います。
採用面接のポイント6 質問・回答集の重要性
私自身、採用面接を10回以上受けているわけですが、その面接のたび、直後に「どのような質問をされたのか」ということをスマホにメモしています。
もちろん、面接によっては「上手くいかなかった…」「反応、あんまり良くなかったなぁ…」と思うこともありますが、そのような時、「反省せずに改善をする」ことを心がけ、質問集にメモしては「次はこう答えよう」という回答を考えていました。
こうした質問・回答集を作り、また次回の面接直前に見返すと落ち着いて臨めると思います。さらには、1次面接と2次面接で答えた内容に齟齬があると問題であるので、ぜひ2次面接前には、「どのようなことを1次面接で答えていたのか」という点は確認しておきましょう。
転職活動が上手く行かない時は
転職活動が上手くいかない時に、よくあるのが「転職シーズンからズレている」ということです。求人数というのは1年を通じて一定ということではなく、かなりシーズンによって変動します。
転職は「4月 > 1月 > 10月」の順に多く、逆に言えばその2~3ヶ月前から求人数は大きく変動します。つまりは、「4月入職を考えて、12月~1月頃から求人を見ておく」ということをやれば、「最も多い求人の中から選ぶことができる」というわけです。
逆に、2~3月頃に「さて、そろそろ転職活動でもしようかな」などとした場合、4月入職をめがけた好条件の求人はほぼ充足しているわけで、それは「良い求人がない…」という状態になります。
こうした1年を通じた「転職に向いたシーズンを逃さない」ということは大事であり、もしそのシーズンからズレているようであれば、少し転職活動の時期をずらすのも手です。
あと、求人は「お見合い」に例えられることもありますが、私は「釣り」にも例えることができるなぁと思っています。それは、「魚がかかるのを待つのも釣り」ということです。好条件の求人がないからといって、諦めてしまえばそれまでです。「待つのも大事な時間」と考えて、自分に合った求人が出るまで「待つ」のも必要であると思います。