私自身、最初から産業医を目指していたわけではありません。そもそもは内科の後期研修医になり、「まずは専門医資格を取得して開業しよう」と考えていました。ですが、その途中でドロップアウトし、そこからは産業医として働いております。
だからこそ、同じように専攻医をドロップアウトし、産業医へと転身を考えておられる若手医師の気持ちはよく分かると思っておりますし、そうした先生方からアドバイスを求められることもあります。
当時のことを今から振り返れば、「こうしておけばよかったな…」という後悔もありますし、過去の自分に今、アドバイスしたいこともあります。特に、辛い日々を過ごしていると、つい近視眼的になってしまい、長い人生におけるキャリアを考えることはできなくなってしまいます。
結果、「この場から逃れたい」という気持ちが先行し、安易に転職してしまう、あるいは後先考えずに退職して、かつての私のように、いわゆるバイトで食いつなぐドロッポ医となってしまう可能性もあるのではないでしょうか。
今の職場を辞めてしまう前に
私の場合、当直やオンコール、救急対応の当番などがストレスの要因となっていました。結果、不眠症状の悪化が見られ、常にイライラして仕事も荒れていきました。
その様子を見かねて医長が叱り、私はその医長を避けるようになってしまいました。そのため仕事の相談もできず、さらにお叱りを受ける…という悪循環に陥ってしまいます。
この悪循環を断つためには、やはり体調面や仕事についてしっかりと医長に相談し、立て直しを図ることが必要でした。「腹を割って話す」ことはとても重要です。
上司もあなたの全てを把握しているわけではありません。「なるほど、そんな大変な思いをしていたのか」「体調が悪かったとは知らなかった」となる可能性もあります。その上で、業務負荷の軽減などについて相談しましょう。
それでも改善せず、「周りはもっと頑張っているぞ。だから君も頑張れ」「私が若い頃は寝ずに働いたものだ。頑張りが足りないぞ」などと言われるようでしたら、その時は転職を考えましょう。
「ダメ元でいいから」相談してみる
「相談したところで変わらない」と諦めていらっしゃる方もおられるのではないでしょうか。実際、私も「どうせ…」と思っていました。
しかし、「最後だと思って相談してみよう」と覚悟を決めて相談することは大事だと思います。それで変わればいいですし、ダメだったとしてもその時は転職するなり、別の進路を考えればいいのではないでしょうか。
私は、こうした相談せずに辞めて後悔しています。「あの時、色々と相談していたら、また状況も変わっていたのではないか」と思うこともあります。
指導医のハラスメントは別問題
指導医のパワハラ、セクハラなどのハラスメントで悩んでいる場合は、これまた別問題です。「話し合って解決できる」という事柄でもないですので、その場合は医長やプログラム統括責任者などへの相談をしてみてはいかがでしょうか。
なお、「自分が仕事できないから悪い。パワハラと言っても、取り合ってもらえないだろうなぁ…」と思っていても、一度はぜひ相談しましょう。相談しても改善しない、結論や対処に疑問が残るということでしたら、日本専門医機構「専攻医相談窓口」に相談することも可能です。実際、ハラスメントが疑われる報告は年間数十件寄せられているようです。
このようなハラスメントの場合、事実確認をされると思われますので、「どのような発言や行為があったのか、証拠集めをしておく」こともしておいた方がいいと思います。「どんなことを言われたのか、どんなことをされたのか」しっかりと記録しておくようにしましょう。
体調不良なら「休む」ことも必要
特にメンタル疾患の場合、必要以上に現状を悪く捉えてしまったり、悲観してしまうこともあります。正常な判断ができない状態で退職や転職のことは、やはり考えるべきではないと思います。
いっそのこと、退職する前に「まずは休養する」ことを考えてみてはいかがでしょうか。主治医を受診の上、「休業を要する」の一筆があれば、「休むな、働け」とは言われないと思います。
ただ、復職する上で、また同じ条件で働き続ければ体調が悪化することは目に見えておりますので、上司と業務負荷軽減についての相談をする必要があります。当直やオンコール回数、入院患者の受け持ち人数などについて、制限を設ける形で相談してみてはいかがでしょうか。
若手ほど「焦ってしまう」傾向に
産業医として、若手の社員さんと面談をする時に感じることが、「そんなに焦らなくても…」ということです。若手ほどその傾向は強く、「今の部署で働いていても、やりたいことができず、経験も積めない。異動できないなら辞めたい」「私はこの仕事に向いてないと思うので、転職しようと考えています」と、早々に見切りをつけて考えがちであるように思います。
ですが、たとえ進路を変えたとしても、それまでの経験は決してムダにはならないと思います。私は産業医の今も、わずかな期間ではありますが臨床医として勤務していた時の経験が活きている場面もあります。また、当時に悩んでいたこと、感じていたこともまた産業医のになった今、「辛い、苦しい」と感じている社員さんの話を聞く上で役に立っています。むしろ、「もう少し臨床経験を積んでおいた方がよかったかな」と思うこともあります。
「無計画な退職」を避けるべき理由
後先考えずに、発作的に退職を選ぶことを「計画性のない退職」、逆にしっかりと在職中に次の転職先を決め、それから退職するということを「計画性のある退職」とここでは定義します。
「計画性のない退職」は、特に若手医師の場合は避けるべきです。医師の場合、基本的にはまだ「売り手市場」ということもあり、「資格さえあればどこか雇ってくれるだろう」と思ってついつい安易にやめてしまいがちです。ですが、そうすることでのデメリットは決して小さくありません。
その理由としては、以下の3つがあります。
・問題点1 転職活動での「焦り」を生む:退職をしてから転職活動をしますと、ムダな「焦り」を生むことになります。「退職してからの方が転職しやすいんじゃないの?」と思うかもしれませんが、それは転職活動が順調にサクサクと進んだ場合です。
求人数がさほどない時期も中にはありますし、求人に応募しても「内定がもらえない」ということだってありえます。そのような場合、「働いていない、無給状態」が長引くと、否応なしに「あれ?これはヤバイぞ」と焦ることになってしまいます。無用な焦りは、転職活動でプラスにならず、判断を鈍らせます。
・問題点2 今後のキャリアに響く:よく考えずに転職をする、あるいはその転職を繰り返した場合、今後のキャリアに大きな影響を及ぼしてしまいます。一貫性がなく無軌道な転職をしていると、採用側に「一体、この先生は何をしたいんだろうか?」と思われる可能性があります。
また、「短期間で繰り返し転職」することもキャリア上はマイナスに働きます。採用側からすると、コストをあまりかけたくないわけで、「長く働いてくれるドクター」を探す傾向にあります。その点、短期間で繰り返し転職していると、「堪え性がないのかな」「人間関係でトラブルになりやすい人なのかな」と思われてしまう可能性があります。
・問題点3 「投げ出す」という悪癖:一度、発作的に退職することを経験すると、つい「イヤなら辞めれば良い」と思ってしまいがちになります。こうした悪癖は、経験してしまうとなかなか修正が難しいと思います。
実際、私も「投げ出す」ことを経験してしまったため、少しイヤなことがあると「ああ、もう辞めよう」と思って転職活動を始めてしまうなんてことがありました。
産業医になるとしたら
産業医になる上で、「産業医のことを先輩医師から聞いた。楽そうだし、なってみようかな」程度で安易に飛び込んでみようとしている方、ちょっと待った。
どんな仕事にも言えることでしょうが、やりたいこととやれることは異なりますし、それぞれ適性というものがあると思います。合わない仕事を続けることほど不幸なことはありません。
そのため、まずは「産業医になる上でのメリット、デメリット」を知っておきましょう。
産業医になることでのメリット
産業医のメリット・デメリットについて、詳しくは次の記事に書いております。
その要旨、特にメリットだけを簡単にまとめますと、次のようになります。
・メリット1 QOMLはこの上なく良好:当直、オンコール、深夜呼び出しはありませんし、時間外の電話も本当に数えるほどです。残業をしたこともほとんどありませんし、「とにかく勤務時間内はしっかり働くけど、時間外勤務は絶対にしたくない!」といった方にはメリットの多い仕事だと思います。
・メリット2 仕事を一通り覚えることに時間はかからない:「一通り仕事を覚えて、産業医としてなんとか業務を回せる」ということを想定して書きますが、その段階になるまで1年とかからないのではないかと、私としては思います。
社員さんとの面談(健康相談、復職判定面談、高ストレス者面談、長時間勤務者面談など)や、安全衛生委員会への出席・講話、職場巡視、健康診断結果の判定業務など、臨床医をしておられた方にとってはそれほど苦もなく覚えられるのではないか、と思います。
・メリット3 スケジュールに自由がきく:社員さんとの面談や、安全衛生委員会、子会社や関連会社訪問などのスケジュールはありますが、それ以外の時間はある程度、自由がききます。そのため、「忙しくてランチもとれない」「トイレに自由に行けない…」といったことは避けられると思います。
・メリット4 バイトしやすい環境:緊急での問い合わせや呼び出しがないということは、その分、バイトに集中できるということになります。特に「週4日勤務で、1日は丸々バイトにつかえる」「土日も気兼ねなくバイトできる」という環境が整っています。
・メリット5 臨床医とは異なる分野だからこその利点:「臨床医に向いていない」といったことを自認されておられる方にとって、産業医は新たな働き方の選択肢となりうるということはあると思います。「リスタート」できることもまたメリットの一つであると思われます。
産業医になることでのデメリット
では、次に産業医になることでのデメリットは何かと言いますと、次のようなものあると思われます。
・デメリット1 臨床医時代よりも不安定な雇用形態:産業医の雇用形態は、1年ごとに契約更新が必要な「嘱託契約」であることがほとんどです。よって、常勤産業医と言っても安定しているかと言うと、そうではなく、病院勤務の臨床医よりも不安定と言えるでしょう。
・デメリット2 臨床バイトの採用で不利になることも:特に産業医としての経験年数が長くなると、逆に「臨床バイトの採用で不利になる」ということもデメリットの一つです。このあたりは、産業医としてある程度勤務した後、非常勤の内科外来バイトなどを探してみると実感できると思います。
・デメリット3 コミュ障には辛い部分も:社員さんと面談をした後に、人事側やその社員へ内容をフィードバックするといったことなど、とにかく人との接点は多い仕事であると思います。この点、コミュ障気味な私には結構辛い点ではありました(もう、仕事だと割り切って慣れましたけども)。
こうしたデメリットはある部分ですが、それを補って余りあるほどのメリットのある働き方であると私としては思っています。
産業医の年収について
なお、年収を心配される方も多いですが、バイト代含め、「臨床医の平均年収並には稼ぐことができる」と言えます。
具体的には、週4日の常勤勤務+週1非常勤外来バイトで、1400~1500万円前後は無理なく稼げると思いますので、その点はあまり心配しすぎなくてもいいと思います。
最終的には、「専攻医/後期研修医を辞めるかどうか」という判断、悩みになってくるかと思いますが、その点につきましては、
こちらの記事をお読みになって検討してみることをおすすめしたいと思います。簡単にご説明しますと、
・あなたにとって仕事って何?
・「医師という仕事」へのこだわりはどの程度?
・リスクをどの程度許容できるか?
この3点をまずは自分自身に問いかけてみるということであり、問題がなければ堂々とドロップアウト(どこか矛盾したような表現ですけども)すればいいのではないでしょうか。
若手医師が産業医になるなら意識したい「業務負荷」
産業医の1日のスケジュールで言いますと、面談の件数も日によって異なりますが、「1日、朝から晩までびっしり」なんてことはない(企業によってはあるのかもしれませんが)ですし、健診の判定業務などもそれほど社員数が多くないところですと「健診のシーズンに数日~何週間実施する」という感じだと思います。
「今日は1件面談をして、安全衛生委員会の講話資料を作成しただけだった」という日もあったりします。こうした状況が続いていくと、もしかしたら「ヒマだなぁ」と感じてしまうこともあるかもしれません。
だからこそ、業務負荷を「バイトで調節をする」というのも一つの手であると思います。平日の1日を使った外来バイトや、土曜などで当直バイトを入れるのもいいでしょう。また、こうした臨床バイトを続けることで、経済的にももちろんプラスになりますし、「臨床の勘を鈍らせない」こともできるというメリットもあります。
ベースとなる仕事の負荷が高すぎないというのは、逆に言えばそこから高くすることも、そしてそれに疲れたら「ゆるく働く」ということもできるわけです。もし産業医になりたてで「業務負荷が軽いのかな」と思われるようでしたら、バイトでの調整をお考えいただいてはいかがでしょうか。
未経験で産業医に転職するなら
未経験で産業医に転職するとなると、やはり経験者とは異なる転職における戦略、もしくは転職における心構えが必要になると思います。
具体的には、以下の3点について知っておくとよろしいのではないでしょうか。
・「経験」を優先:「経験者を優遇、もしくは経験者のみを募集する」という求人は結構あり、未経験の段階だと応募すらできない、もしくはもし応募したとしても、採用される可能性が低いところがあります。
「一社目の壁」なんて呼んだりもしますが、やはり未経験の段階での転職ですと、より厳しい戦いになるというのはたしかです。ですので、「とりあえずは産業医になって、経験してみる」ということを優先させることをお考えいただき、2~3年経験を積んだ上で、「次の転職で希望条件へと近づけていく」ということをお考えいただくとよろしいのではないでしょうか。
・「勤務地」について:常勤産業医を募集している企業は、大都市圏に集中しやすいです。なので、今後の転職などを考えたら、「企業の集まりやすいエリアに、通勤しやすい地域に住んでおく」というのは、産業医として働上でメリットは大きいと思います。
お子さんの通学の問題などもあるとは思いますが、地元を離れることが可能ならば、「都市圏へできるだけ通勤しやすい場所」に早めに移動しておくのはおすすめできると思います。
・「吸収」することを優先:臨床である程度の経験があったりしますと、ついつい変なプライドが邪魔をして言い訳をしたり、知ったかぶりをしてしまうということもあるかもしれません。ですが、まずはいろんなことを経験し、吸収することを優先させましょう。
わからないことは素直に「分かりません。教えてください」と言えるというのも大事なことです。こうしたことができる上でも、やはり先輩産業医がいる企業を選ぶことでのメリットは大きいと思います。
さらに言えば、フットワーク軽く「何でも積極的に吸収しよう」という姿勢でいれば、自然「仕事熱心な先生だな」と思ってもらえると思います。また、質問や相談を行うことで、積極的にコミュニケーションをとることになり、それもまた特に若手では好印象を持ってもらえると思いますので、おすすめです。
産業医になるか迷ったら
「産業医になろうか迷っている」と言っても、そもそも「産業医」という仕事について具体的なイメージができますか?このことについては、若手であろうとなかろうと、ほとんどの臨床医の方々が「分からない」のではないでしょうか。
大抵の大学や初期研修では「産業医」の仕事について教えてくれませんし、周囲に「産業医を本業としている医師」もいないと思います。そのような状況ですと、「産業医の仕事ってどんなイメージ?」と質問されても、答えられないのも無理もありません。
こんなことを言っている私自身が、産業医に転職する前は「産業医?はて?」という状態であり、認定産業医の資格を得るための講習で「あ、なるほど。そういう仕事なのね」と漠然とですが分かった次第です。
なので、「とりあえず情報収集のために動いてみる」ということは大事なことだと思います。認定産業医の資格取得のために講習を受けてみたり、あるいはリクルートドクターズキャリア[PR]などの求人紹介会社に相談して求人票を見てみるのでも良いと思います。
その上で「やっぱり臨床の方が良いのかもな」と思ったらやめておいた方がいいです。いくらQOMLのためとは言えど、興味のない仕事に就くことほど不幸なことはありません。逆に、「産業医の仕事、ちょっと興味あるかも」と思えたらぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
「産業医である必要はあるか?」という問いかけ
転職するにしても、当直回数を減らしたり、「業務量の負荷軽減を図った臨床医での転職」も可能なはずです。「楽そうだから産業医」という理由だけでの転職は、あまりオススメできません。少なくとも、「産業医の仕事に興味がある」ということでないと、続けるのは辛いと思います。
産業医ではなく、臨床を続ける道も他にあると思います。たとえ専門医資格取得前であっても、「無理なく働ける仕事」はあるはずです。
まずは「どのような仕事を希望しているのか」そして「この条件なら働ける」といった条件について、転職エージェントに相談をしてみてはいかがでしょうか。最初から「こんな条件無理だろ」や、「自分のような経歴じゃ無理だろ…」と思わないことが大事だと思います。
「産業医は将来性が不安」という指摘
「産業医の将来性は不安。今後も産業医として働いていけるの?」と思われる方もいます。特に、臨床医(勤務医・開業医)と比べて「不安定な仕事」と思われ、そう指摘されているのだと思います。
ですが、臨床医の先生方を取り巻く環境も大きく変わりつつあります。最近で言えば勤務医にとって「医師の働き方改革」は大きなトピックスではないでしょうか。
さらに、今後は「2040年問題」も到来すると言われています。医療費の増大、そしてそれを支える現役世代の人口減少。財政が逼迫すれば、医療費に改革のメスが入ることは避けられないでしょう。それに加えて都市部を中心とした「医師過剰時代」がやってくると言われています。
どの仕事でも、今は安泰でもその先は苦境に立たされるということはありえると思います。「将来性がありそうだから」と思ってその分野に飛び込んでみたところで、「全く想像しない結果になった」ということもあるでしょう。
だからこそ、「将来性がある」という不確実な情報に縋ってつまらない仕事をやるよりは、「やってみたい」「面白そう」といった好奇心を感じる仕事を選ぶほうが私としては満足度が高く、長続きするのではないか、と思っています。
若手こそ大事な「辞めるタイミング」
産業医になるにしても、やはり先立つものはお金です。「現時点で、年収をどれぐらい稼げるのか」ということは重要だと思います。
専攻医(後期研修医)だとして、「自分にどの程度の知識・技能があるのか」ということは客観的に見ておくべきではないでしょうか。「外来で、なんとか一人で診療できる」「病棟管理の業務も対応できる」「当直もできる」というようなことですと、やはりバイトの選べる範囲が広くなり、それはつまり年収に直結します。
ですので、専攻医(後期研修医)を辞めて産業医になる上では、「ある程度のバイトができるスキルや知識」を身につけた上で辞めることを考えた方がいいかな、と私としては思います。
「キャリアブレイク」を避けるべき理由
退職をして、しばらくは次の転職先を決めずにゆっくりする期間を作ることを「キャリアブレイク」と呼ぶそうです(注釈:休職も含むそうですが、ここでは転職の話に限っています)。
この「キャリアブレイク」、転職や転科を考える若手医師もやってみようかな、と思うかもしれません。ですが、私としては以下のデメリットがあり、避けるべきであると考えています。
・デメリット1 転職への影響:退職をした後、「次が決まっていない」間での転職というのは無用な焦りを生みます。結果、求人選びで妥協に妥協を重ねてしまったり、本来の転職目的や希望条件を見誤って転職をしてしまう可能性も高くなります。
また、「空白期間」を肯定的に捉えてくれるところはいいですが、あまり退職からの期間が長いと、「なんだ?今さら自分探しか?」「メンタル弱い人で、なかなか働けなかったのか?」と否定的に考える採用担当者はいると思います。
・デメリット2 「リセット」癖がつく:転職して働き始めて、やはりしんどいと感じる場面は多くあると思います。その結果、「やっぱり無理だわ…また退職してしばらく休むか」と思ってしまう可能性もあるのではないでしょうか。
幸か不幸かはわかりませんが、医師ですとある程度の金銭的な余裕はあるでしょう。その結果、「貯蓄もあるし、しばらくはバイトで食いつなぐか」というふうに思ってしまう可能性もあり、リセット癖がついて転職を繰り返してしまうのはやはり考えものかと思います。
さらに言えば、会社員の場合であれば「様々な業種があり、選択の幅が非常に広い」ということもありますが、医師の場合はかなり選択の幅は広いため、十分、勤務を続けながらも「次はこの道に進もう」と考えられると思います。
だからこそ、「とりあえず退職」は避けて、次を決めてから退職することをお考えいただければと思います。
在職中に転職活動を成功させるコツ
私の場合、退職した後に転職活動を行ってしまい、「失敗したなぁ」と思っておりました。やはり基本的に転職活動は、「内定をもらう→退職」をした方がよく、内定がない内に辞めてしまいますと、焦りや不安が非常に強くなります。
そのため、ぜひ「在職中に転職活動を行い、内定をもらってから退職を伝える」という手順を踏んでいただきたいと思っております。そこで、専攻医でありながら転職活動を行う際に、ポイントとなるのは次のようなものです。
ポイント1 転職までのロードマップを理解
そもそも産業医として働くためには、産業医の要件を満たす必要があり(医師免許だけではダメ)、「日本医師会認定産業医になる」ことが最も現実的であると思います。
ですので、転職活動の基本的な流れとしては次のようなものになります。
・認定産業医になるための集中講座に応募・受講
↓
・50単位を取得して、申請を行う。
↓
・申請と同時期、リクルートドクターズキャリア[PR]などに登録して、求人紹介を受ける(無料です)。
↓
・求人へのエントリー、書類選考・採用面接を受ける。
↓
・内定が出た企業へ入職。
ただ、実際には、「集中講座が受講できるかどうか」「1週間近く休んで、受講しにいけるのか」という不確定な要素もあり、注意が必要なところです。
ポイント2 「産業医転職の常識」を理解
認定産業医の資格取得が可能となったとして、そこから本格的な転職活動に入っていくことになります。そこで、押さえておきたいのは、
1) 常勤産業医の求人は、基本的に社員数1000人以上の大企業であり、大都市圏(東京23区内・横浜・名古屋・大阪)に集中している。
2) 「転職シーズン」というものがあり、基本的には4月入職を考える人は多く、その前年11月くらいから求人数は増加していき、2~4月は減少してくる(なお、4月>1月>10月の順で入職する人が多い)。
3) 産業医未経験だと、経験者に比べて採用率は低くなる。そのため、「未経験でも入職が可能」という企業に積極的に応募していく必要がある。
という点です。このあたりの「産業医転職の常識」はぜひ理解しておきましょう。
ポイント3 転職活動が上手くいかなかったら
そもそも求人数が臨床医に比べて少なく、また産業医未経験ですとよりそのハードルは高くなります。ですので、「一社受けたらすぐ受かる」ということはあまりないと考えておいた方が良いと思います。
未経験可能で応募できる求人をあまり絞り込みすぎず、「何社か受けてみる」というスタンスでいた方がよろしいと思います。「書類選考→一次選考→二次選考」という流れで当落が決まるわけですが、「二次選考で落とされた」という経験を私も何度もしています。
特に重要なのが「採用面接対策」ですが、このあたりは
にも記載していますが、事前準備、そして「場数を踏む」経験が重要です。事前準備については、
・想定質問、そしてそれにどう答えるのかという回答を用意する。
・企業の情報をリサーチしておく(企業のホームページで企業概要と事業内容、トップメッセージ、採用情報など。そして、就職・転職口コミサイトなども見ておくと参考になります)。
ということは少なくともやって面接に臨みましょう。また、「その企業がどのような産業医を求めているのか」といった事情は、転職エージェントが知っていたりしますので、リクルートドクターズキャリア[PR]などの登録して求人紹介会社の転職エージェントに、事前に相談してアドバイスをもらっておきましょう。
産業医とキャリア
産業医にも「専門医」制度はあり、「産業衛生専門医」が該当します。ですが、「臨床の他分野の専門医資格を取得→専攻医試験に合格→指導医について3年間修練→専門医試験に合格」という幾重ものステップを踏む必要があります。
つまりは、専門医資格を取得するには「資格を得るにも高いハードルを超える」必要があるわけで、少なくとも私はハナから目指すことはできませんでした。産業医を専業とされる意識高い系の方は別ですが、そもそも「臨床医をドロップアウトして産業医に」なった私としては「なしだな」というわけです。
専門医資格と産業医の実情
常勤産業医を雇う上で、大多数の企業側の本音を言ってしまえば「専属の産業医を雇うのは、選任を義務付けられているから。それ以上でもそれ以下でもない」というところだと思います。
もちろん、「雇ってよかった」と言わせる産業医を目指すべきであると思いますが、雇う時の本音は上記のようなものであり、「ウチの課題解決のために、どうしても産業医の専門医を雇いたい!」というところは皆無に等しいと言えます。
基本的に「人柄採用」であり、「にこにこほがらかな印象で、保健師や社員たちと仲良くやってくれそう」ということで雇っている企業は多いと思います。この点、「専門医資格があろうとなかろうと…」というのが現状だと思います(今後、変わる可能性はあるでしょうけども)。
まだまだある「産業医の希少性」
臨床医が圧倒的多数の中、産業医はある程度の希少性があると思います。「常勤産業医で働いている」というドクターはまだまだ少ないのが現状です。
そのため、誤解を恐れず言えば、その希少性ゆえに「常勤産業医の経験があり、ある程度の勤務年数がある=キャリア」となっていると部分はあります。
元も子もない話となってしまうかもしれませんが、「産業医として企業で働く」上では、専門医資格が必須というわけではないし、現に、私も専門医資格はありませんが10年以上本業として働けています。
「労働衛生コンサルタント」の資格取得
労働衛生コンサルタントは、厚生労働大臣が認めた労働安全・労働衛生のスペシャリストとして、労働者の安全衛生水準の向上のため、事業場の診断・指導を行う「国家資格」となっています。
産業医が「労働衛生コンサルタント」を目指す上でのメリットとしては、次のようなものがあります。
・そもそも産業医として必須の知識を問う問題がメインで出題されるので、勉強になる。
・合格率3割以下(2022年で24.4%)であり、その試験に合格した=価値を知っている人からすれば、労働衛生分野のスペシャリストというイメージを持ってもらえる(箔が付く)。
・産業医の転職で有利となることもある(経験談です。少なくとも、書類選考は少し通りやすくなると思います)。
・一定要件を満たせば、筆記試験が全免除となり、口述試験のみになる(産業医学講習会の受講など)。
・認定産業医の資格とは異なり、更新不要。
専門医資格を目指す代わりに、「なんとかなりそうな」労働衛生コンサルタント資格の取得を目指す、というのはコスパがよくおすすめできると思っております。
なお、具体的な対策、勉強法などについては、
こちらにまとめておりますので、ご参考にしていただけますと幸いです。