産業医の「キャリアアップ」についての3つのポイントー後期研修をドロップアウトした私の場合

臨床医としてのキャリアということで言えば、「基本領域に加えて、サブスペシャルティ領域の専門医まで取得する」「大学院に進学し、博士号を取得する」「臨床経験を積んでいく」といったことではないでしょうか。

そもそも周りにお手本となるようなキャリアの方々もいて、馴染みがあって分かりやすいということだと思いますが、産業医の場合はどうかと言うと、周りに産業医の方もおられないという事情もあって、「産業医のキャリア…はて?」ということだと思います。実際、私もそうでした。

今回は、そんな産業医の「キャリアアップ」について書いてみたいと思います。

ちなみに、私は後期研修をドロップアウトした身ですので、「やる気も、意識も高いドクター」「臨床もそつなくこなせる上、産業医もできちゃうドクター」とは異なり、かなり社会不適合気味な人の低い目線であるということはご了承いただければと思います。

産業医の「専門医」とは

産業医にも「専門医」制度はあり、「産業衛生専門医」が該当します。ですが、「臨床の他分野の専門医資格を取得→専攻医試験に合格→指導医について3年間修練→専門医試験に合格」という幾重ものステップを踏む必要があります。

もちろん、「産業医を本業にして、今後はそれ一本で食べていくんだ」という気概の下、目指す先生もおられますが、そもそも私は「内科系の専門医を取得するまで、後期研修医でいられなかった」わけで、目指すこともできるわけがありませんでした。

元も子もない話となってしまうかもしれませんが、「産業医として企業で働く」上では、専門医資格が必須というわけではありません。現に、私も専門医資格はありませんが、10年以上本業として働けています。

「産業医」の希少性

将来的には分かりませんが、臨床医が圧倒的多数の中、産業医はある程度の希少性があると思います。「臨床医をやりながら、嘱託産業医もやっている」という方はおられるかもしれませんが、「常勤産業医で働いている」というドクターはまだまだ少ないのが現状です。

そのため、現状は上記のように「専門医資格がなくとも、職を得ることができる」状況となっています。また、その希少性ゆえに「常勤産業医の経験があり、ある程度の勤務年数がある=キャリア」となっているわけです。

ただ、勤務していた「業種」にもより、製造業ですと「製造業の企業での勤務経験がない方は…工場の巡視もしたことないんですよね?」と判断されることもあります。

企業側の「本音」

常勤産業医を雇う上で、大多数の企業側の本音を言ってしまえば「専属の産業医を雇うのは、選任を義務付けられているから。それ以上でもそれ以下でもない」というところだと思います。

もちろん、産業医としては「そんな低い期待値を軽々と超えて、雇って良かったと言わせてやる!」と思いたいところですが。

ですので、「ウチの課題解決のために、どうしても産業医の専門医を雇いたい!」というところは皆無に等しいのではないでしょうか。採用の決め手は「人柄(にこにこほがらか、保健師や社員たちと仲良くやってくれそう)」というところがほとんどだと思います。

「労働衛生コンサルタント」資格

産業衛生専門医の資格は取得していないけれども、「労働衛生コンサルタント(保健衛生)」の資格は取得しているという方は比較的多いと思います。実際、私も専門医資格はありませんが、この資格は持っています。

労働衛生コンサルタントは、厚生労働大臣が認めた労働安全・労働衛生のスペシャリストとして、労働者の安全衛生水準の向上のため、事業場の診断・指導を行う「国家資格」となっています。

この産業医が労働衛生コンサルタントを目指す上でのメリットとしては、次のようなものがあります。

・そもそも産業医として必須の知識を問う問題がメインで出題されるので、勉強になる。

・合格率3割以下(2022年で24.4%)であり、その試験に合格した=価値を知っている人からすれば、労働衛生分野のスペシャリストというイメージを持ってもらえる(要は箔が付く)。

産業医の転職で有利となることもある(経験談です。少なくとも、書類選考は少し通りやすくなると思います)。

一定要件を満たせば筆記試験が全免除となり、口述試験のみになる(産業医学講習会の受講など)。

・認定産業医の資格とは異なり、更新不要。

といったところでしょうか。「産業医学講習会」は、認定産業医の資格を更新する際に受講するので、取得後5年が経過し、更新のタイミングで「そろそろ労働衛生コンサルタントの資格をとろうか」と思うとよろしいと思われます。

「口述試験」の難易度

「口述試験だけでしょ?そんなのなんとでもなるでしょ」と言っていた同僚は、2回連続で落ちていました。基礎知識を叩き込み、頻出の問題をばっちりと押さえる。そうした対策ができていませんと、確実に見抜かれて落とされます。

医師もこぞって受けている中、合格率3割以下はダテじゃありません。ですが、裏を返せば、それなりの時間をかけて勉強して、基本をしっかりと押さえておけば受かります。

具体的な対策、勉強法などについては、

【2024年度】労働衛生コンサルタント口述試験に合格するための完全マニュアル(スケジュール・用意すべきテキスト・勉強法)
私は幸いにして、労働衛生コンサルタントに一発合格することができました。今振り返りますと、十分に下調べをして、どのような勉強をすれば合格できるのかを自分なりに筋道立てることができたことが勝因であったように思います。 一方、私の知人の産業医は2...

こちらにまとめておりますので、ご参考にしていただけますと幸いです。

産業医として「リスタート」

産業医に転職した時点で、勤務医としてのキャリアとは異なる道を歩むことになるわけで、いわば「リスタート」することになります。最初から何もかも知っていて、「産業医の仕事?全く困らないよ」などという人はいないと思います。

それこそ私は産業医になって、最初の面談のことをよく覚えていますが、「何を質問したらいいのだろうか?」「何を話したらいいのだろうか?」ということばかりが頭を駆け巡り、結局、「話を聞いただけ」で終了してしまいました。面談後に記録を残そうにも、「あれ?なんて言ってたかな?」となかなか思い出すことができず、今後どのようにするかといった方針も立てることができませんでした。

面談だけでなく、安全衛生委員会、またオブザーバーとして呼ばれた会議でも意見も何も言えずただ参加していただけの状態でした。結果、3回目の会議から、私は呼ばれることはなくなりました。

「知らない・できない」ことを認める

産業医として「何もできない」状態の私だったわけですが、こうしたリスタートの時に、ついついしてしまう悪癖が、「知ったかぶり、分かったふり」であったりします。

産業医になりたての頃は、まさに「分かっている振り」「知ったかぶり」をしてしまっていたわけです。このせいで大分、損をしている部分も大きいと思います。

分かっていない自分、何もできない自分というのを認めて「イチから学び直さねばならない」と認めるというのは、実は簡単そうに見えて結構難しいものです。特に、年齢を重ねていたり、あるいは臨床医としての経験が長いということであればあるほど、「分からないことを認め、素直に質問をすること」が難しいのではないかと思います。

「質問する」ことの大事さ

一社目では、知ったかぶりや分かった振りで、学んだり経験を積んだりすることが上手くできなかったように思います。一通りの業務はこなせますが、まだまだ「分からないこと」は多かったです。

その後、私は転職して二社目に入職するわけですが、そこで、同時期に私よりも10歳以上の離れた産業医も入職していました。そこで一緒に仕事をすることになるわけですが、まだ産業医になりたてのその年配のドクターは「◯◯ってどういうことですか?」「◯◯って何ですか?」「これってどうすればいいんですかね?」と頻繁に人事の社員や私、保健師に質問をしておられました。

それこそ基本的、基礎的なところですが、質問をした上で、しっかりと自分でも学び直しをされており、こうした態度や姿勢が必要なのだと改めて思ったわけです。

リスタートで大事なこと

臨床医から産業医になる上では、先輩産業医と一緒に勤務するということが大事だと思っております。私がつい知ったかぶりや分からない振りをしてしまうようになったきっかけも、「身近にすぐ相談できる人がいなかったから」というところもあります。

この点、やはり複数の産業医が所属していて、相談できる環境というのはリスタートの上では非常に大事なことだと思います。

もしこれから臨床医から産業医になろうとお考えということでしたら、「複数の産業医」が所属している求人を紹介してもらうことをおすすめします。こうした求人については、リクルートドクターズキャリア[PR]などのキャリアエージェントに相談すればご紹介してもらえますので、まずは転職相談からしてみてはいかがでしょうか。

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