産業医をやっておりますと、勤務医の友人からは「残業もなく定時で帰れる上に、当直やオンコール、救急対応、カンファレンスもないんでしょ?最高じゃない」と皮肉まじりに言われることもあったりします。
たしかにそうしたメリットは享受できているというのは否定しませんが、物事にはメリットもあれば、デメリットもあるものです。そんなことを友人たちから言われますと、「産業医だって大変なこともあるんだよ…」と言いたくなることもあったりします。
産業医になって早や10年以上、そんな私が振り返ってみて、今回の記事では「産業医になることのメリットとデメリット、どんなことがあるの?」ということについて書いてみたいと思います。
メリット1 QOMLはこの上なく良好
産業医になりますと、当然のことながら当直、オンコール、深夜呼び出しはありませんし、時間外の電話も本当に数えるほどです(それも昼~夕方のみです)。

でも詳しく書きましたが、常勤産業医になって一年目、一番の恩恵は「時間外の電話や呼び出しがない」と感じており、気兼ねなく晩酌もできれば、土日に出かけられることの喜びは格別なものでした。それまで臨床医時代に悩んだ不眠症もピタリとよくなり、体調も安定しています。


残業をしたことも本当に数えるほどで、社員さんとの面談が長引いたり、あるいは「どうしてもこの時間に面談をしていただきたくて…」と急遽、時間外に予定を入れられたりすることぐらいです。
この点、「とにかく勤務時間内はしっかり働くけど、時間外勤務は絶対にしたくない!」「当直、オンコールが苦痛」「土日は呼び出されることなくしっかり休みたい」といった方にとってはとても大きな恩恵を得られる就労条件だと思います。
メリット2 仕事を一通り覚えることに時間はかからない
超大手企業と契約しているような、トップ産業医は別ですが、「基本的なことが一通りこなせる産業医」になるためには、半年とかからないと思います。
社員さんとの面談(健康相談、復職判定面談、高ストレス者面談、長時間勤務者面談など)や、安全衛生委員会への出席・講話、職場巡視、健康診断結果の判定業務など、臨床医をしておられた方にとってはそれほど苦もなく覚えられるのではないか、と思います。
昨今、メンタルヘルス疾患を抱えておられる社員さんは増加傾向にあり、もちろん、面談一つをとっても深堀りしていこうと思ったら底なしだとは思いますが、「企業が必要としているレベル」になるには、さほど難しくはないと思います。

ただ、「なんだ、産業医って楽(ラク)なのか」と思っては欲しくはなく、実際は産業医なりの苦労や大変さはあります。その点、

にも記載しておりますので、ご一読いただけますと幸いです。
メリット3 スケジュールに自由がきく
社員さんとの面談や、安全衛生委員会、子会社や関連会社訪問などのスケジュールはありますが、それ以外の時間はある程度、自由がききます。
そのため、「忙しくてランチもとれない」「トイレに自由に行けない…」といったことは避けられると思います。
少なくとも「忙しくて目が回りそうだ…」ということはほとんどありません(ごくたまに、長時間勤務者面談や高ストレス者面談がパンパンにスケジュールに入れられることもあったりしますが)。この点も、臨床医に比べてQOLMは高くなる要因だと思います。
メリット4 バイトしやすい環境
緊急での問い合わせや呼び出しがないということは、その分、バイトに集中できるということになります。特に「週4日勤務で、1日は丸々バイトにつかえる」「土日も気兼ねなくバイトできる」という環境は、勤務医の方々にはないことではないでしょうか。
実際、私は在宅でのオンライン診療を行っていますが、勤務医の先生方はシフトを入れても「同僚のヘルプで呼び出された」「同僚がコロナに感染して、当直を代わらざるを得なくなった」なんてことがあったりするようです。
その点、産業医は緊急での呼び出しもなければ、代わりに当直をしなければならないなんてこともありません。「バイトしやすい環境」というのもまた、産業医のメリットの一つであると思います。
メリット5 臨床医とは異なる分野だからこその利点
私は「臨床医に向いていない」と自分でも思っていましたし、面と向かって後期研修医時代に所属していた科の医長からも言われたことがあります。
そんな私だったからこそ、産業医は「臨床とは異なる」からこそやってみようと思えたし、「産業医としてリスタート」という気持ちになれたように思います。
「臨床医に向いていない」と思っておられるドクターにとっても、産業医は「臨床医とは異なる分野」と思ってやってみることができるのではないか、それもまたメリットの一つではないかと私としては思っております。
デメリット1 臨床医時代よりも不安定な雇用形態
産業医の雇用形態は、1年ごとに契約更新が必要な「嘱託契約」であることがほとんどです。よって、常勤産業医と言っても安定しているかと言うと、そうではありません。
実際、私も一社目の時に2年勤務した後に「3年目は契約更新しません」と言い渡されております。なお、一社目の契約打ち切り話につきましては、

に詳しく書いておりますので、ご興味ありましたらお読みいただければと思います。
当時の反省点を挙げるとするならば、契約更新をしてもらうためには、しっかりと(生殺与奪を握る)人事部を中心とした社員さんたちとコミュニケーションをとり、存在感を示す仕事をしなければならないということだと思います。
なお、「契約更新」を乗り越えるためには、次の記事

のように、
・「仕事をしているアピール」も大事(面談数の集計を行う、共有スケジュールにどのような仕事をしているかしっかり書き込む)
・「仕事を頼みやすい、相談しやすい」産業医になる。
・相談や問題をたらい回しにしない、「問題解決型」の産業医を目指す。
ということを心がけましょう。
ただ、一社目で契約打ち切りの憂き目にあったとしても、産業医を続けることを諦めるのは早いです。ぜひ

をお読みいただき、二社目への産業医としての転職をトライしていただければと思います。
デメリット2 人を選ぶ業務
特に臨床医としての未練が強く残るようなタイプの方に多いと思いますが、産業医の仕事が「合わない」という方はたしかに一定数いらっしゃると思います。

社員さんとの面談や、書類作成、健康診断の判定業務など、「退屈で合わない…臨床医の方がよかった」と思われる可能性はどうしてもあります。この点、やはりやってみなければ分からないというところですね。
デメリット3 臨床医より必要な「協調性・コミュニケーション」
私も、「協調性・コミュニケーション能力に乏しい人間」であると自覚しておりますが、企業はやはり「協調性を持って働けて、コミュニケーションがしっかりとれる」ことを重視しています。
一緒に働く保健師や産業医はもとより、人事労務担当者の社員ともしっかりコミュニケーションをとりつつ協調性をもって働くことが求められています。
たとえば、社員さんとの面談後、どのような点に留意すべきか関係各所にアドバイスをしたり、就業制限について現場や人事とすり合わせをしたりと、この辺のコミュニケーションをしっかりととれるかどうかというのは、産業医にとって重要な仕事となっております。
苦もなくできるという方にとってはデメリットではないでしょうが、人見知りな上にコミュ障な私は結構慣れるまで大変なことでした。

あとは、

にも書いておりますが、「社会人として、会社の一員として」の姿勢などは求められることや、「ちょっと医局で休憩」といったことがしづらいことなど、やや細かいこともありますので、産業医のリアルな部分をお知りいただければと思います。
以上です。
メリット、デメリットはあるかもしれませんが、「産業医って面白そうかも」「産業医やってみたい」と思っていただける方でしたら、ぜひ

をお読みの上、認定産業医の資格を取得後にリクルートドクターズキャリアや、エムスリーキャリア
にご登録の上、転職エージェントに相談して求人を紹介していただいてはいかがでしょうか。