大学で週1、外来担当という「奉公」をしている産業医が、「大学の医局で、こんなことがあって…」と怒っていましたので、よくよく話を聞いてみると、3人ほどの研修医が「産業医は楽」という話をしており、その言葉にカチンときたようです。
もちろん、最近はパワハラが問題になったり、さらには週1しか大学にいない身ですので、説教するようなことはなかったようですが、週明けの会社で息巻くほどにはイライラしていました。
さらに話を聞いていくと、研修医には「産業医」という存在や業務についていくつかの認識の誤りがあることに気づきました。「産業医は楽じゃないよ」とは言いませんが、その誤りを訂正する意味でこちらに書かせてもらおうと思います。
患者を診断・治療しなくていいから楽
産業医の業務の一つとして、さまざまな従業員の相談に乗る、あるいは健康診断の結果をもとに保健指導を行うというものがあります。その中には、実は病気を抱えているかもしれない従業員が隠れているケースがあります。
そのため、「こうした重大な疾患を抱えているかもしれない」と推測し、受診を促す必要があるわけです。また、実際に病気を抱えている従業員がいれば、「本当に就業継続が可能かどうか」判断しつつ、フォローアップを行う必要があります。
もし疾患が悪化するのを「予見できたはず」にも関わらず、制限などをかけずに就業させ続けていた場合、実際に疾患を診ている主治医同様に責任を問われる可能性があります。よって、「患者を診断・治療しなくていいから楽」というのは、その言葉がそのまま当てはまるかと言えば、そうではないと思われます。
オンコールもないし、当直もないから楽
これはたしかにそうですね。時間的な制約というのは少ないかもしれません。平日と土日のオン/オフはしっかりとつけられるので、とても健康的な生活が送れると思います。
ただ、勤務時間中もヒマかと言うと、そうとは限りません。社員さんとの面談、また人事労務担当者との打ち合わせ、健康診断の判定業務、健康障害有所見者などへの受診勧奨、安全衛生委員会の準備など、行うべきことは結構あると思います。
面談に伴う意見書(復職時面談、長時間勤務者面談、ストレスチェック後の面談などに伴う意見書)の作成などもあり、事務作業も臨床医と同等か、それ以上にあると思われます。
専門性が要らないから楽
専門的な知識をフル活用し、日常診療にあたっていらっしゃる臨床医の先生方には頭が下がりますが、その一方で「産業医には専門性が要らない」というのは誤った認識です。
臨床医を続けてこられた先生方が、いきなり一般企業で「今からあなたは産業医です」と言われて業務にあたったとしたら、戸惑いの連続ではないかな、と思われます。
精神科の先生であっても、メンタルヘルス疾患を抱えた患者さんの復職を、職場でどのようにサポートしていくかということは、未経験であれば困難ではないかと考えられます。まさしく立場が異なれば、その景色は全く異なって見える、ということだと思われます。
もちろん、産業医の専門性も臨床医同様、ピンキリではあると思われます。全ての皆さんが「スペシャリスト」かと問われれば、そう答える自身はありませんが、産業医を続けてらっしゃる方はやはり、学会・セミナーに参加を行ってらっしゃっており、常に情報収集は欠かしておられないのではないか、と思われます。
以上です。
怒ってしまった先生も、上記のような感じで教え諭してくれれば、研修医も認識を改めてくれたのではないでしょうか、と思った次第です。仕事である以上、「楽に稼げる」といったことはものはないはずです。
「簡単そう」と思ってその業界に飛び込み、ずっと「なんだ簡単だ」と思い続けて挫折や失敗をしないような人がいるならば、よほど才能と運に恵まれているか、もしくは大して仕事をしておらず、単に経験不足なだけではないでしょうか。
私としては、産業医という仕事が大変興味深く、続けていくだけの価値のある仕事であると思っています。ぜひ、より多くの先生方が、産業医にご興味を持っていただけることを陰ながら望んでおります。
もし産業医としての勤務をご希望でしたら、産業医としての転職のたびに私も利用させていただいております、「リクルートドクターズキャリア[PR]」「エムスリーキャリア」といった人材紹介会社の転職エージェントにまずはご相談いただいてはいかがでしょうか。
また、QOMLに恵まれているからこそ、産業医への転職タイミングが難しいという視点で、
という記事も書いております。もしご興味がありましたらお読みいただけますと幸いです。