社員さんと面談をして、様々なことを要望されることがあります。「異動したいんですけど、どうにかなりませんか?」「あの上司の下で働くのはもう無理です」「残業が多すぎます。業務を減らしてもらえませんか?」…などなどです。
もちろん、そうした要望を全て企業側が受け入れていたら会社は成り立たないでしょうし、産業医が「こうしなさいよ」と言ったところで、全て丸呑みするとは思えません。
では、そこでどうするかというと、「落とし所を探る」という企業側との交渉になるのではないか、と私としては思っています。
100%は無理でも…
苦手な上司がいて異動を希望されている社員さんがいたとして、産業医として「人事面談、やってあげてもらえません?」とお願いしたとします。「本人に現部署以外での経験に乏しく、他の部署への異動は難しそう」といった回答だった場合、「では、同じ部署内でチーム異動はできません?」といった交渉もできるかもしれません。
「業務負担が多くて大変」ということで、「今でも十分軽い。これ以上は他の同僚たちとの手前、減らせない」といったことだったら、「Aという業務は苦手としていてBの業務の方が得意なようです。Aを完全にゼロにはできなくても、Bの方を多めに業務として持たせられませんか?」といった交渉を行うこともあったりします。
この点、「0か100か」といった交渉はなかなか通りづらいでしょうが、双方が歩み寄って「落とし所を探る」といった交渉であれば通りやすいのではないでしょうか。
交渉の機会づくり
社員さんの中には、「会社や上司と交渉する」といったことが始めから念頭にないという方もおられます。上司との関係性にもよるでしょうが、「今の仕事が辛くて、辛くて…」といったことを相談されない方も結構いらっしゃいます。
こうした状態が続いていますと、その社員さんはメンタル不調をきたして休職・退職といったことにもなりかねません。そうなりますと、せっかく採用した社員さんに働いてもらえなくて、企業としてもダメージを負ってしまいます。
「それであれば、社員さんの要望をある程度聞いて、働いてもらう方がいい」ということで聞き入れてもらえるということもあったりします。こうした社員・上司・人事などの交渉の場を作り、話し合ってもらうというお膳立ても産業医としてやっていたりします。
特に我慢強く、「耐えられない自分が悪い」という方こそメンタル不調になりやすいでしょうし、さらに言えば「これに耐えられないなら、自分は去るしかない」と、相談・交渉もせずに退職を選んでしまう傾向にあったりします。
双方の立場への理解
上司・部下の関係性が悪くなったとして、「それは上司が悪い」「それは部下が悪い」と白黒で分けられるほど簡単なことではなかったりします。関係がこじれるまでには様々な要因が絡んでいるわけです。
どちらに肩入れするというわけではなく、それぞれの話を聞いて、双方の立場を理解した上でどうしたらいいのか、ということが産業医としては必要であると思います。
「落とし所を探る」と言うと、否定的なイメージを持たれるかもしれませんが、交渉を決裂させずに会社、社員双方にメリットを感じてもらう上では必要な交渉術ではないか、と私としては思っております。