初期研修を終えて、専攻医にならずすぐ美容医療に携わる「直美」が物議を醸しているわけですが、では、直接「産業医」になるのはどうでしょうか。
もちろん、それぞれの考え方があり、「私は産業医一本で食べて行く」という方もいるでしょうから、それについてとやかく言うつもりはありません。それこそ「選択の自由」というところだと思います。
ですが、仮に若手医師から「初期研修が終わり、これから産業医になろうと思うんですけど、どう思いますか?」と相談されたとしたら、「一度、専攻医を経験してからの方が良いと思うけどね」と回答すると思います。
3つの観点から思うこと
「産業医になる」ということで言いますと、キャリア的な部分ばかりで論じられがちですが、実はそれだけの側面で捉えるのではなく、他にも論じるべきポイントは個人的にあると思うのです。
もちろん、キャリアとしてどうか、というポイントは除外して話せるものではないですが、それ以外にも、「年収」そして「転職」という観点も大事なことではないか、と思っています。
こうした複数の視点から「直美」ならぬ「直産」をするかどうかでは検討すべきではないか、と思われます。
キャリア的な側面から
初期研修を終えた時点では、「どのような仕事が自分に向いているのか」といったことは実際のところあまり分かっていないのではないかと思われます。
私の場合、後期研修医(新専門医制度のスタート前でしたので)を経験し、「ああ、もう勤務医というか、臨床医は自分に向いていない」と痛感して、それから産業医になりました。だからこそ、産業医という仕事を始めて「もう臨床医には戻れないな」と退路を断つということができたというのは良かったのかな、と思います。
逆に、専攻医になってみて、「臨床医、意外とイケるかも」という結果になる可能性もあります。そのまま臨床医を続けるということもできますし、40代半ば頃に「やっぱり産業医をやってみようかな」と転身することもできると思います。
過去には医師も「一つの尖った専門性」があれば安泰だった頃もあるでしょうけども、今や変化の激しい時代であり、時代に上手く適合していくには、複数の専門性を持っている必要があると言われています。
他にも、臨床経験は産業医の業務にも役立ちます。様々な疾患を持つ社員さんがおり、治療をしつつ仕事をしなければならない、ということも多々あります。「術後、このようなフォローアップを行うはず」「抗がん剤治療を始めていて、このようなサイクルで行っていくんだろうな」「抗がん剤治療による副作用の影響は、業務にこう関わってくるはず」といったことが想像できないと、なかなか就業上の配慮などについて、企業側に意見することは難しいということもあると思います。
こうした観点からも、「まずは専攻医になってみる」という方が、「直産」よりもキャリア的には良いのではないかと思っています。
年収的な側面から
当直・オンコール、その上、残業もほとんどないということですと、産業医の年収単体では、臨床医の年収に比べて低めになります。ですので、「週4日産業医として勤務して、1日はバイトをする」という産業医のドクターは多いと思います。
常勤産業医、特に「専属産業医」として企業に選任されている場合、「他に嘱託産業医の仕事(バイト)をする」ということは基本的にはできません。そうなりますと、非常勤バイトをする上では、「臨床のバイトを行う」ということになるかと思います。
ですが、この「臨床のバイト」を行う上では、専攻医の経験をしていないと、なかなか「クリニックの外来を一人で担当する」「病棟管理のバイトをする」といったことが難しいのではないでしょうか。
バイトの選択の幅、という点で言えば、「直産」の場合、狭まってしまう可能性があると思います。それはすなわち、バイト代の差となって現れる可能性があるので、年収的な側面から言えば、割りを食う部分であるかと思います。
転職の側面から
転職は、企業によって求める産業医像が異なるということもあるので、一概には言えないとは思いますが、中には「ある程度の臨床経験(約10年)がある」ことを重視する企業というのは存在します。
また、「診療所を併設している企業」などもあり、「外来業務も担当してもらいたい」という求人もあったりするわけです。あるいは、「内科での臨床経験のある医師を求む」「精神科での臨床経験のある医師を求む」という企業もあります。
こうした求人も存在しているという点で言えば、「直産」であるとエントリーできる企業の数が少なくなる、エントリーしたとしても、「書類選考段階で省かれてしまう」可能性はあると思います。
以上、3つの観点から「直産」におけるデメリットについて書いてみました。
個人的には、まず専攻医をやってみて、それから産業医という方がおすすめできると思っています。
もしそこから「やっぱり産業医になってみようかと思っている」ということでしたら、リクルートドクターズキャリア[PR]などの求人紹介会社に問い合わせれば、求人紹介を受けることができると思います。実際、私は転職の際に毎回、こちらの企業に依頼しています。まずは相談からしてみてはいかがでしょうか。

