産業医として「話が通じない人、理解しづらい人」に対してメッセージを伝える上でのひと工夫【産業医マニュアル】

コミュニケーションの問題で、同僚とたびたびトラブルを引き起こし、能力や集中できる分野にかなり偏りがあると考えられる50代の社員がいます。恐らく専門外来を受診すれば発達障害と診断されるのかな、と思われます。

この社員、元々うつ病と診断されており、通院しているのですが、この度、症状の増悪で休職しています。1ヶ月ほど休職した時点で主治医より「復職可」の診断が出て、「さて、通勤訓練を」という段になりました。

「まずは始業時間前、平日の朝に産業医の面談室まで来てください」と指示したわけですが、来たのは9時過ぎでした。「始業時間前に、と申し上げましたが…」と言いましたが、「え?そうでしたっけ?朝にくればいいと思っていました」とのこと。

その通勤訓練も途中でドロップアウトしてしまったため、ちょっとハードルを下げて「まずは朝しっかりと起きて、生活リズムを整えましょう」と提案しました。そこで「いつもの起床時間に、私の会社支給の携帯電話へ着信履歴を残してください」と依頼したわけですが、着信履歴があったのは、またもや9時過ぎ。「朝、鳴らせばいいと聞いてたもので」と、また自分本位に話を解釈していました。

さらには、人事に「産業医の先生は明確なゴールを示してくれないから、どうすればいいのか分からない。今、何をやっているのかよく分からない」と言っていたそうです。私は会うたびに「まずは実際に会社へ通うことができるのか、通勤訓練を実施してみましょう。朝9時前にまずは会社へ来てください。その通勤訓練を無事に2週間終えられたら、復職の可否を判定する面談を行いましょう」と言っていましたし、非常に簡単な指示や目標で忘れるはずがないと思っていたので、非常にショックでした。

以前からこの社員、耳からの指示には非常に弱く、誤解していたりすぐに忘れてしまうということは聞いてましたので、そこで「では、今から言うことを、私の目の前でメモしてください」と指示することにしました。

実際、この指示をしてからは、確実に時間を守ってくれるようになりました。「ちょっと耳からの指示は入りにくい人だな」と思ったら、「目の前でメモしてください」と言うことで、視覚情報に変換できて確実に理解してもらうことができるようです。

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