早いもので、後期研修医をドロップアウトして産業医となり、10年近くが経とうとしています。既に初期臨床研修を含めても、「産業医経験年数>臨床経験年数」となりました。
思えば、「専門医資格取得して早く開業するんだ。それでこの辛い勤務医生活からおさらばするんだ!」とばかり考えていた後期研修医時代が、もはや遠い昔のように思います。そこからすると、現在の常勤産業医生活はかなり道が変わったわけですが、自分としては満足のいく結果なような気もします。
さて、表題の「私が臨床医をドロップアウトして、産業医を10年近く続けてこれた理由」ですが、これにはいくつか心当たりがあります。
臨床医生活が無理だった理由
単刀直入に言ってしまえば、「当直・オンコール・時間外問い合わせや呼び出し」などが無理だったからです。特に、当直や深夜の時間外呼び出しなどが連続して重なり、結果として不眠症状の悪化に繋がりました。
不眠から体力を削られ、心身ともにバランスを欠いてしまったことがきっかけで上司からの叱責、関係悪化へと繋がり、転がり落ちるように退職するに至りました。
その点、産業医になれば当直やオンコール、時間外労働はほぼありませんし、休日に電話が鳴ることもなくなりました。夜、安心して眠れる生活がどれほどありがたいものか、産業医になりたての頃は実感することも多かったです。
消去法的な理由になってしまいますが、「臨床医生活がもはや無理」ということが理由の一つとして挙げられると思います。
「傷ついた社員さんに寄り添うこと」が性に合っていた
医師と言えども労働者であり、働く上で傷つくこともあれば、ストレスを感じることもあります。
特に、私は上司との関係悪化(臨床医時代だけではありませんが)や、3回の転職経験、大きなストレスを抱えつつ働いていた時期、不眠症状に悩んでいた時期…などなど、傷ついた社員さんに共感し、寄り添うことが苦ではない要素が自分にあったからこそ、産業医を続けてこれた要因の一つだと思います。
自分がもっとコミュニケーション能力が高く、どの職場でも上手くやれる人だったら…と考えますと、今のように社員さんの話を共感しつつ聞けたかと言われますと、自信がありません。この点、「傷ついた社員さんに寄り添うこと」が性に合っていたのかもしれません。
色んな視点から見ることが好き
物事を一方向から見て「こうだ!」と言う方や、あるいは「自分のやり方が一番!」という決めつけタイプは苦手です(主体性がない、とも言えますが)。
別に自分のことを「多様性がある人間です」と言いたいわけではありませんが、色んな視点があることを知ったり、物事を色んな角度から見ることが好きなタイプであると思います。
結果、たとえば「上司からパワハラを受けています」という社員さんの主張を真に受けるだけではなく、その上司や同僚、人事サイドの話を聞いた上で「さて、産業医としてどう対処しようか」と考えたりすることにやる気を感じる、ということに繋がっているのかな、とも思います。
臨床への強い憧れはそもそもなかったのかも
またこれも消極的な理由になってしまうかもしれませんが、私は元々、病理医志望でした。その理由と言うのも、「人間関係が苦手で、将来的に一人でコツコツとできる仕事がいいなぁ」ぐらいに思っていたように思います(学生時代です。臨床を知り、内科のような患者さん相手のBtoC的な仕事と同等、あるいはそれ以上にBtoB的な医者を相手にする仕事が大変だと痛感しました)。
ですが、初期研修医時代にお世話になった指導医に内科診療の面白さを教えていただき、結果、内科の某科に進むことになりました。こうした経緯からも分かるように、そもそも臨床に強い憧れがあるわけでも、バリバリのキャリア志向があるわけでもありませんでした。
そんな性格もあって、すんなりと「産業医」生活を受け入れられたのかもしれません。この点、臨床医憧れが強い方ですと、アレルギー反応を示して「やっぱり臨床医だ!」と戻ることになっていたのかな、と思います。
以上です。
思いつく限り、理由を羅列してみましたが、もし「あ、自分もそうかも。産業医面白そうだな」と思われるようでしたら、ぜひ産業医の道を検討してみてはいかがでしょうか。ただ、未経験の方が常勤産業医になるのはそれなりに大変ですので、リクルートドクターズキャリア[PR]や、エムスリーキャリアなどの転職エージェントというガイド役に相談してみることをおすすめしたいと思います。