「異動したい」ということで産業医に相談をしに来る社員の方同様、「異動したくない」という相談をしに来られる社員もおられます。
特に、うつ病の既往や治療中であるという社員さんの場合、「異動するとうつ病が悪化する」と訴えたり、もしくは手慣れておられる方ですと、「診断書を持参してきました」というケースもあります。
さて、そうしたケースの場合、産業医としてはどう対処すべきかということですが、「異動によって病状が悪化する可能性」というのは否定できません。しかしその一方で、異動によって病状の悪化が確定的かと言えば、そうとも言えないわけで、「異動は絶対にダメ!」といった内容で意見書を作成することもできません。
ではどうするかと言いますと、こうした旨を会社側に伝えざるを得ないということになると思います。すなわち、「病状悪化の可能性はあるが、断定はできない」といった内容です。正直、毒にも薬にもならない意見ですが、産業医としては仕方ないところだと思います。
それを会社側はどう判断するかということですが、そこからは入社時の契約内容に関わってくることになると思われます。すなわち、全国型の総合職などで入職している場合、それは他の都道府県に転勤することもあるし、異動も承知の上で社員となっているわけです。
要は、そこで社員が「異動したくない。異動したら病状が悪化する」と言った場合、契約内容とは異なる主張を行っているということになるわけです。では、そこで企業がどう対応するかですが、恐らく異動のある総合職ではなくなる、つまりは一般職への変更も含め、契約内容の見直しを行っていくことも検討するということになるのではないでしょうか。こうなってくると、産業医の出番、介入という場面ではなくなってきますね。
ただ、これも企業側の受け入れ体制や、本人のスキル・役割にもよってくると思われます。企業側が寛容で、なおかつ社員側の企業への貢献度合いが高い場合、企業が「異動しないでいいよ」と容認する可能性もあります。
私もこうした「異動したくない」というケースは何回か経験していますが、いずれにせよ社員の要望や病状などを把握し、企業側へ伝えた上で相談、といった流れになっていることがほとんどであり、結局、社員への処遇については当然のことながら企業の最終判断に委ねる、ということになっています。