産業医として勤務しておりますと、企業側や社員からの相談を引き受ける立場になります。その時に思うのは、「国語力って大事だなぁ」ということです。
私は国語、特に現代文が苦手なタイプだったのですが、現代文の中でも「小説」、特に「この主人公の心情を答えよ」といった問題には悩まされてきました。
人事労務担当者から「先生、この社員との面談をお願いします」と要請がありますと、「さて、この担当者はどういう意図で面談を依頼してきたのだろうか」と、現代文の問題を解く心境になります。
人事の意図とは
最近、休みがちで勤怠の乱れている社員Aさんがいたとします。このAさんの面談を人事側が依頼した時に、実は色んな「意図」があったりします。
・そもそもどのような原因で体調不良に陥っているのか聞き出して欲しい。
・メンタル疾患で精神科受診が必要ということだったら、受診勧奨をして欲しい。
・休業が必要かどうかの判断をして欲しい。
・人事側として何もしていないというのは問題なので、「産業医面談をセッティングした」というポーズが欲しい。
など、「面談をお願いします」という一言にもそこには様々な理由や意図があるわけです。そこで、「面談をお願いします。実はAさん、こういう状況で…」と話を聞いている中で、「なるほど、ストレス要因を聞き出して、受診勧奨をとりあえずして欲しいわけね」といった意図を汲み取るようにするわけです。
産業医初心者の陥りやすい罠
上記のように、どのような意図を持っているのか、場面場面で異なってくる可能性があります。ですが、産業医初心者の頃はなかなかそのようなことが分からない、意図を掴むことができないということがあります。
結果、長々と病歴・ストレス要因などを話して人事労務担当者をうんざりさせた上で、「では、今後どうするのか」という解決策の提示がまるっきりなされない報告をしてしまっていました。
また、人事を介さずに直接相談に来られる社員さんもおられるわけですが、そこでも「なぜ相談に来たのか」という意図を掴めていないと、見当外れなメッセージを社員さんに伝えてしまうことにもなります。
産業医として試される「国語力」
特に心情把握は大事で、さらに言えば「誰に、どのようなことをメッセージとして伝えるのか」ということも産業医としては試されます。
「面談をしても、何ら今後の方針や解決策を示さずだんまりを決め込む」のは最悪だとして、人事側へ報告や相談をするのは良いとしても、「その伝え方や内容がダメ」なんてことではガッカリされるだけです。
まず入り口の段階で「この相談、どんな意図や目的があるのだろうか?」ということをしっかり掴み、その上でどう対処するのかということは、産業医としてとても大事なことだと思っています。