臨床医として「産業医的」な視点を持つことで広がる対応力

内科外来で診療をしている時に、「風邪っぽい」「頭が痛い」「お腹が痛い」など、様々な理由をつけて受診をする患者さんがいました。さほど重篤感はなく、できる限りの診察をして対処療法の薬を処方する、場合によっては「会社に提出する診断書」を出すこともありました。

今なら分かりますが、その会社員である患者さんは、「会社に行きたくなくてちょくちょく受診していた」という事情がありました。現在、産業医をしていますと、「上司に欠勤を伝えるにも、何もないと言いづらい…じゃあ、受診でもしておこうか」ということでちょくちょく受診している社員を見かけることもあります。

ただ、臨床医からすれば「忙しいのに…」とイライラしてしまう気持ちも分かりますし、私も実際そうでした。ですが、そこで「最近、お仕事の方はいかがですか?」「よく眠れていますか?」といったことでコミュニケーションをとることで救われる患者さんもいるのではないか、と思うわけです。

「救いのない診療」を避けるには

もちろん、時間の限られている外来で、診療以外の話をすることは難しいと思います。「それは内科の仕事じゃない」「心療内科にでも行けばいい」「それこそ産業医が話を聞いてやれよ」というご意見も分かります。

一方、そこでイライラしつつ診療していると、「あ、この先生、苛立ってる」「言葉にトゲがあるなぁ」ということは患者さんも察するわけです。そこでますます追い詰めてしまうよりは、「会社でストレスを溜めてませんか」と一声かける方が良好な関係性を築けるのでは、とも思います。

実際、「冷たい対応をされた…」とショックを受ける社員さんもいて、「私も外来の時は気をつけなきゃ」と思っております。

言葉の端々にトゲがあるような対応ではなく、患者さんにとって「なんらかの救い」になるコミュニケーションがそこでとれるかどうかは非常に大きいのではないか、と私としては思うわけです。

「産業医的」のコミュニケーション

このあたりのコミュニケーションであったり、共感しつつ話を聞くということの重要性は、やはり産業医をやってみないと実感しづらいところだと思います。

「別に産業医としてその会社に働いてるわけでもないんだから、何もできないじゃないか」と思われるかもしれませんが、実際「共感しながら話を聞いてもらえた」「ストレスを吐き出させてくれた」と感謝されることは往々にしてあります。

当然ながら外来診療ですので、「診療」がメインであることに変わりはないですが、その中で「なぜ度々、診療を受けるほどでもないのに受診するんだろうか?」ということの理由を考え、「なぜ来るんだよ」という言動・態度ではなく少しコミュニケーションをとる、ということも産業医的な視点がありますとできるのではないか、と思うわけです。

産業医経験のススメ

会社でローパフォーマーとなってしまい、居場所がなく上司や同僚から強く当たられてしまう、という社員も実際におり、そのような方の対応をしている時に上記のようなことを思った次第です。

やはりこうしたことは「臨床医」「産業医」それぞれの立場を経験してみないとなかなか分からないものです。この点、もしご興味がありましたら、「産業医」の仕事を経験してみるとよろしいのではないか、とおすすめできる理由でもあります。

もちろん、臨床を続けながらもバイト感覚で嘱託産業医として働いてみる、ということもできます。リクルートドクターズキャリア[PR]医師バイトドットコム[PR]に非常勤求人が掲載されていることもありますので、お問い合わせいただいてはいかがでしょうか。

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