産業医の業務について問われた医師国家試験問題-「職場巡視」の周辺知識(111E11)

医師国家試験でも、産業医の業務について問われたことがあります。その一例が、平成29年(2017年)に出題された以下の問題です。

産業医について誤っているのはどれか。
a 事業者が選任する。
b 月1回の職場巡視を行う。
c 業務上疾病の認定を行う。
d 労働安全衛生法に要件が示されている。
e 常時50人以上の事業所では選任が義務付けられている。

答えは「c」となっています。業務上疾病とは、業務起因性が認められる、つまりは仕事によって引き起こされたと判断される病気であり、労災保険の給付対象となるわけですが、これを認定するのは、労働基準監督署長となるわけです。

ところが、実務をやっている方ですと、この問題は「ん?」と気になるところがあるのではないでしょうか。

職場巡視に関する周辺知識

産業医による職場巡視は、基本的には「月1回以上」となっていますが、所定の条件を満たすことで「2ヶ月に1回」と緩和することができます。この点は、労働安全衛生規則 第15条に記載されています。

第十五条 産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

この条文、「次に掲げる情報の提供を受けている場合」というのが
・衛生管理者が少なくとも毎週1回行う作業場等の巡視の結果
・衛生委員会等の調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの
にあたります。

これらの情報を受けた上で、さらには、「事業者の同意を得ているときは」とあり、事前に事業者に対し同意を得ている必要があります。こうした条件が満たされている上で、「産業医の職場巡視を2ヶ月に1回」とすることができるわけです。

このあたり、嘱託産業医の先生の中には「ネットで2ヶ月に1回でいいって見たぞ。なんで毎月やってるんだ?」と言い出す方もおられるようです。ですが、その緩和を行うには、上記のような条件を満たすことが必要ですので、お忘れなく。

ただ、このように条件緩和もできるため、それを知っていると「月1回の職場巡視を行う…◯とは言い難いな」と思う方もおられるというわけです。

問題の背景

ただ、上記の法改正が施行されたのが、平成29年(2017年)6月からであり、医師国家試験で出題された当時はまだ施行されていないことを考えると、「当時は問題なく◯」であったと言えます。

さすがに「職場巡視は、所定の条件を満たせば2ヶ月に1回と緩和することもできる」といった知識はマイナーすぎるため、出題しにくくなっているとは思いますが、それでも嘱託産業医のバイトをする時のために覚えておいて損はないかな、と思いますので、頭の片隅に置いておいていただけると幸いです。

なお、「業務上疾病の認定を行う」のは当然、産業医は行うわけではないですが、実務的には「腰痛が酷くて休んでいる社員がいるのですが、労災になると思います?」といったことを人事労務担当者から「相談」されることはあったりします。

ただ、認定をするわけではないので、国試的にはしっかりとそこは押さえておいていただければと思います。

【産業医未経験者向け】職場巡視を行うなら「チェックリスト」使用がオススメ【作成例の資料リンクあり】
職場巡視とは、作業環境を実際に見て回り、安全衛生上の問題点を発見・改善していくことです。産業医となった場合、事業場を見て回り、衛生管理者などにその内容をフィードバックし、改善を求める、あるいは改善案を提案するといったことが必要になるわけです...
【2024年度版】嘱託産業医の完全ガイドーバイトの始め方・業務上のポイント・注意点
産業医としての働き方としては、大きく分けて「常勤産業医」「嘱託産業医」の2パターンがあります。今回の記事は、後者の「嘱託産業医」についてであり、具体的なイメージとしては、「基本的には月1回、企業を訪問してバイトを行う」というものです。 嘱託...
タイトルとURLをコピーしました