私は後期研修医の時、臨床医、特に勤務医を続けていくことが難しいと思ってドロップアウトしています。「臨床が向かない」と自分でも思っていましたし、それが単なる謙遜でもなんでもないのは、当時所属していた科の医長から「君は臨床は向かないね。検査科に移ったらどうだ」とまで言われたことが裏付けていると思います。
ショックな言葉で覚えてますけども、それまでの私の度重なる「やらかし」を考えますと、「そりゃ言われてもしょうがないよな」と今になっては思います。
ただ、なぜそれまでの数年は後期研修医を続けることができたのかと言いますと、それは先輩医師たちが当時はまだ数多く在籍していて、業務負担をかなりの部分していてくれたからです。
ところが、その先輩医師が1人減り、2人減り…となり、さらには3人減った上に、新たに医局派遣でやってきた医師が病欠したことで事態は一変しました。
業務負担増でキャパがいっぱいいっぱい
私が退職した理由としては、業務負担がかなり多くなり、それに耐えられなくなったというのがやはり、大きな一因であったと思っています。
私が頼りないながらも、「主軸」として働かざるを得なくなり、今までのように先輩の陰に隠れて勤務するということができなくなってしまったわけです。
当直回数、時間外の問い合わせや呼び出しも多くなり、それが原因で不眠症状が表れるようになりました。常にイライラし、絶対あってはいけないことですが、患者さんやスタッフに当たってしまうなんてこともしてしまいました。
上司を避けていた私
私の問題行動・言動が医長の耳に入り、医長としては当然、私に対して注意をすることになります。
それが繰り返されるようになり、私は次第に医長を避けるようになり、結果、ますます報告や相談をしなくなってしまい、さらに関係悪化をするという悪循環に陥ってしまいます。
今振り返ってみて、また産業医として思うこととしては、この時点でしっかりと体調のことや仕事のことを相談すべきでした。
上司に報告・連絡・相談すべき理由
「上司というのは部下のことを見ていないようで、実際は見ているものだよ」なんて言う人がいますが、私は逆で「上司は、部下のことを見ているようでまるで見ていない」ことが多いのではと思います。
実際、私が産業医として社員と面談し、「これこれこういうことが原因で大変な思いをされているそうです。結果、こうした状態に陥っているそうです」とその社員の上司に伝えると、「知りませんでした」なんてことが往々にしてあります。
こうした「情報がない」状態ですと、上司としても動くことができません。だからこそ、「しんどいです、大変です」「この仕事が大変です」というのはぜひ上司に伝えておくべきです。
私が休職する間際も、ようやく「実は最近、眠れなくて。ずっと気分が沈む込んでいて…受け持ち患者も多く、深夜に呼び出されたりして大変です」と打ち明けたところ、「あ、そうなの?」という、少し驚いたようなリアクションで、全く知らない様子でした。
このあたり、ぜひ若手医師は特に「大変な時こそ上司に相談しよう、頼ろう。辛い時は辛いと言おう」とお伝えしたいと思います。逆に言えば、私がそれさえできていれば、退職に至るという事態は避けられたかもしれないと思います。
ただ、物事には例外も…
私が産業医として、「ダメ元で、まずは上司に相談しましょう」とアドバイスしますと、「それで解決したら、苦労しませんよ」という諦めに近い意見を社員さんから言われることもあります。
たしかに、上司自体に問題があって、「聞く耳を持たない」「精神論・根性論で押し切ろうとする」「そもそもストレス要因が上司のパワハラ・モラハラ」なんてこともあったりします。
そのような場合は、会社員の場合は「さらに上の上司に相談してみましょう(課長が問題なら、部長に)」「人事に相談してみましょう」なんて提案するわけですが、専攻医の場合も相談窓口(院内であったり、日本専門医機構におけるハラスメントに関する専攻医相談窓口)があると思いますので、まずはそちらに相談を行うことも大事であると思います。
私の場合、その後
私の場合は、後期研修をドロップアウトして退職し、しばらくのドロッポ医生活を経て産業医になっています。
後期研修医の時に、「あの時、ああしていれば…」とそれこそ思うこともありますが、きっとそんなに長くは続かなかったかな、と思いますし、現状、産業医として勤務することに満足しています。
私のように、「臨床医が向かない」と見切りをつけ、産業医という道を歩み始めるのも一つの選択肢であると思っています。このあたり、拙著『産業医になろう: コネなし・未経験の勤務医が産業医になるための方法論』にまとめておりますので、ご興味がありましたらご一読いただければと思います。
また、もし「産業医になる」ことをご検討されているということでしたら、転職も初めてということですと「具体的に、まずどうしたらいいのか分からない」「求人もどんなものがあるか検討もつかない」という方が多いと思います。
ですので、まずは リクルートドクターズキャリア[PR]の転職エージェントにご相談いただいてはいかがでしょうか。