産業医になって感じた最大のメリットー「つながらない権利」とは

私が産業医になろうと思ったのも、勤務医として働くことが「無理だ」と感じたからです。その点、産業医という働き方は私にとって多くのメリットがありますが、その中で最大のメリットと感じることがあります。

それは、「時間外や土日に連絡がほとんど(というよりも一切)ない」ということです。基本的には出勤日に連絡をくれたり、あるいはメールで送っておいてくれて、私が出勤した時に確認をする、という形となっています。

こうした時間外や土日に「勤務先から連絡をしないでもらう」という権利のことを「つながらない権利」などとも言いますが、私にとってはこの権利を尊重してもらえる今の働き方はとても大きなメリットがあると考えています。

「つながらない権利」を主張しづらい勤務医

逆に、「つながらない権利」を主張できない場合、どのようなことになるのでしょうか。「患者さんの状態について、深夜に報告や問い合わせの電話がかかってくる」「オンコールで自宅待機だが、いつ電話がかかってくるか分からない」こうした状況で、いつ連絡がくるか分からない…とやきもきする時間が続くわけです。

私の場合、急患がICUに入院している時や、お看取り目前で「呼ばれるかも」と思う夜はなかなか寝付けず、休日もなかなか休むことができない状態でした。その結果、不眠症をこじらせて退職に至っています。

産業医をしていて、このあたりの「割り切り」が上手く「夜間に電話がかかってきても、終わればすぐ眠れる」「呼ばれた時は呼ばれた時さ。それまでは好きなことをしよう」と気持ちの切り替えが上手い社員さんがいて驚きもしましたが、こうした切り替えは私には難しかったようです。

特に主治医制度の病院での勤務医は、なかなかそうした権利を主張することは難しかったりします。というのも、オーダーした指示内容が誤りであったり、患者さんの状態が急に変わる可能性もあったりします。

そうした情報をせっかく看護師さんが伝えようとしているのに、「もう退勤したから後は知らん。当直医に聞いて」と無碍にするのは何事という風潮であるでしょうし、患者さん本人やご家族からしたら「そんな無責任なことでは困る」と思われる心情も分かります。

自分が病棟に不在の時に連絡をもらえることはありがたいことだというのは重々承知しておりますが、それでもプライベートはゆっくり休みたいという気持ちもあるわけで…

結局は「どこまで許容できるか」という問題か

「つながらない権利」を主張できず、「問い合わせの電話や呼び出しにしっかり対応する」ことができるか否かというのは、結局ドクターのストレス耐性や体力、あるいはそれを自分の家族がどこまで許容できるのかといった問題になってくるのかな、と思われます。

「医師たるもの、そうした責任を持ち、緊張感を常に持っていることで高給取りなんだろ?対価をもらってるんだから、それぐらいやりなよ」と言われてしまえばそれまでですが、それが最初はできていても難しくなってきたり、あるいは最初から難しいという私のような人間もいます。

あってはならないことでしょうが、看護師さんからの電話に不機嫌に出てしまったり、あるいは電話に気づいていながら「出られない」ということが続くなんてことがあるかもしれません。結果、自分の「勤務医という働き方に向いていない」というだけにとどまらず、職場に迷惑をかけてしまうということもあるわけです。

オン・オフのメリハリが効いた産業医という働き方

産業医の場合、終業時間きっちり働いて、残業もなく退社。時間外は邪魔されることもなくプライベートを楽しんだり、バイトに勤しむこともできます。

私の場合、オンライン診療のバイトを定時退社後にしています。こうした働き方ができるのも、やはりオン・オフのメリハリが効いた産業医だからこそだと思います。

「勤務医の働き方に適応できない」という人は、私を含め一定数いるのだろうと思います。その場合、無理して勤務医として働き続けることはストレスを強く感じることになることもあると思います。

私自身も、適応できないことに悩み続けていました。もちろん、皆さんが産業医という働き方を選択すべきだとは思っておりませんが、他の働き方を選択することで「救われた」という人もいるということは頭の片隅に置いておいていただけますと幸いです。

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