産業医の判断に納得がいかないと「大量のクレーム」メールを送りつけられた話

急性心筋梗塞で1ヶ月ほど休職されたAさんが、復職を希望されて産業医面談にお越しになられました。治療後の経過も良好で、主治医からも「復職可」という診断書が出されていました。

急性心筋梗塞に関しては、就業に問題なしと思われましたが、気になったのは、Aさんの歩行でした。跛行(いわゆる、びっこをひいた状態)が見られており、歩行のスピードも非常にゆっくりでした。

「軟骨がすり減っている」ということで、「変形性膝関節症」と診断名自体は告げられてはいませんが、近所のクリニックを受診してヒアルロン酸注射を実施されているとのことです。

産業医からの提案

実は事前に、人事からの情報で「Aさんは通勤で杖をついており、仕事中の歩行でも杖を使っている」ということを聞いていました(さらに、「長距離歩けないため、勤務中にサボりがちである」とのことです)。

Aさんの仕事は、日に1万歩近く歩く必要があります。「変形性膝関節症で、跛行が見られている。しかも杖をつくほど状態が悪い中、復職して大丈夫なんだろうか?」ということが気になったわけです。

そこで、「今回入院した病院の整形外科を受診し、復職が可能かどうかを判断してもらってきてはいただけないでしょうか。それまで、復職についてはお待ちいただきたい」と提案しました。すると、そこでAさんの態度が豹変しました。

一見、穏やかそうに見える男性でしたが、スイッチが入るようにイライラ、怒り出した印象です。

復職に問題なし?

「膝のことは、今回のことと関係ないですよね?今までだって問題なく勤務してこれていたんです。だから、復職できるでしょ!」と納得いっていないご様子。

こちらとしては、「足を引きずって、大分歩きにくそうです。痛みも見られているのではないでしょうか。仕事としては、大分、長い距離を歩く必要がありますし、医学的に判断をしてもらう必要があると思います」と説得したわけですが、それでも「今までだって働けていたんだから、問題なく働ける!」の一点張りでした。

その内、不信感が募ってしまったのか、「先生は私を働かせないつもりですか?」と声を荒げる場面もありました。「そのようなことは言っていません。復職が可能かどうか、医学的に判断をしたいと考えています。その上で、整形外科の受診が必要だと考えています」と伝え、その点は譲れませんと言って面談が終了しました。

明らかに納得いかない、「さっさと働かせろよ」という表情でしたが、繰り返し受診の必要性などをお伝えしました。

繰り返し送られるクレームメール

面談室を出ていく時にも、睨みつけられるような感じであり、イヤな予感はしましたが、人事の担当者に向けてクレームのメールを2~3時間おきに送りつけていたようです。

事前に「このような形で面談が終わりました」と伝えていたため、人事側も理解していてそのクレームには苦笑いなようでしたが、やはりクレームがくる、ということ自体、産業医としてもショックではあります。

「整形外科を受診し、復職可能かどうかを判断してもらう。その上で改めて話し合いましょう」と提案し、明確な復職に向けての条件を提示したつもりでしたが、それでもクレームは言われてしまいました。

トラブルになりやすい「就業可否判定」

休職中だった方が、職場復帰可能かどうかを判断する「就業可否判定」は、やはりトラブルになりやすいのかな、と思います。

「主治医も復職許可を出している。私も働きたいんだ。それなのに、なんで産業医がNGを出すんだ」と社員さんの側からは思われるのかもしれませんね。その反発や怒りというのが、クレームという形に繋がるのかもしれません。

もちろん、理不尽に「主治医の判断なんか関係ない。産業医の意見が絶対だ、復職させないよ」などと言うのは論外として、復帰に関する条件を明示したところで、クレームは来てしまうようです。

産業医の対応としては、

・発言内容、明示した条件、判断の根拠などを面談記録票にしっかり残しておく。

・人事労務担当者がクレームを真に受けてしまう可能性も考え、社員が感情的になっているようだったら、あらかじめ人事側へ報告や相談を行っておく。

・社員が感情的になると、売り言葉に買い言葉になりやすいので、面談中は努めて冷静に、不用意な発言をしないように気をつける。

といったことをしておくべきかな、と今回の一件で改めて思いました。

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