「ラクだから産業医」という考えでの転職が失敗する理由

私自身、「臨床医はもう無理」ということで産業医を選んだわけですし、全くもって他の方のことをとやかく言う資格はありませんが、「ラクそうだから」という考えで産業医に転職をするのは失敗してしまう可能性が高いと思います。

たしかに、常勤産業医として勤務する私の場合、ほぼ定時で帰れますし、当直やオンコール、時間外の問い合わせや呼び出しもありません。また、患者さんの生命を預かるという重いプレッシャーや責任感を感じながら働くということもありません。

日々、患者さんのために長時間の勤務に耐えてくださっている臨床医の先生方に比べて、格段に「心身ともにラク」と思われても仕方がないかとは思いますが、それでも「ラクだから」という理由で転職するのでは、産業医の仕事は続かないのではないでしょうか。

仕事を続ける上で大事なこと

私自身、自由診療のいわゆる「問診バイト」を経験したことがありますが、「これは続かないな」と思いました。というのも、その仕事にやりがいや「患者さん(お客さん)の役に立っている」ということを実感することができなかったからです。

案の定、1ヶ月経過した時点で音を上げ、そのバイトをやめてしまいました。短期間であれば、「役に立っているという実感がなくても、お金がもらえるから淡々と働く」ということはできるかもしれませんが、常勤産業医に転職するとなれば、そうはいきません。

もちろん、こうしたバイトを否定するわけではありません。実際、私は自由診療であるAGAのオンライン診療バイトを行っています。こちらはやりがいを感じて診療できています。

なんらかの「誰かの役に立っている」という実感がないと仕事は続かないと思います。産業医に転職したとして、「どんな役に立てるのか」という視点で考えておくことは重要なことであると思います。

産業医としての役割

具体的に、産業医になったとして社員さんのどんな役に立つことができるのかと言いますと、たとえば以下のようなことが挙げられます(他にもありますが、貢献を実感できるところでの例です)。

社員さんと面談をして、受診を勧めて早期発見・早期治療につなげることができたり、なかなか復職できずに休職を続ける社員さんをサポートすることで復職できるようにしたり、あるいは社員の対応に困る人事にアドバイスをしたり…と、こうしたことで「やりがいを感じることができるか」ということも大事なポイントであると思います。

特に、メンタル不調の社員さんなどでは面談を重ねている内に、次第に「会社には言いづらいことなんですけど…」と、胸の内を打ち明けてくれるなんてこともよくあります。こうした時にもやはりやりがいは感じますし、「この社員さんのために何ができるだろうか」と動きたくなるわけです。

産業医になろうかどうかの分かれ道

臨床医としての勤務に、心身ともに疲れて限界を感じていらっしゃる、そうしたお気持ちも分かります。実際、私もそのような経験をして産業医になりました。

ですが、産業医になってから仕事を続ける上では、「どのようなことで社員さんたちの役に立つことができるのか、会社に貢献できるのか」という視点を持って働くことができないと、続けることはできないのではないかと思います。

こうしたことを考えた上で、産業医になろうとお考えということであれば、ぜひ転職をしてみることをおすすめしたいと思います。やはり何事も経験してみないと分からないということもあります。実際、私も産業医になってみてその楽しさや辛さが分かりました。

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