筆者は、臨床心理士/産業カウンセラーの緒方俊雄さんです。この本で新型うつ病について、その特徴や「新型うつ病という病」が提唱された/生まれた背景、緒方さんが担当された患者さんの実際のカウンセリングの様子について記載されています。
すぐ会社を休む部下に困っている人が読む本 それが新型うつ病です
新型うつ病は、3つの特徴があると指摘しています。
その3つの特徴としては、
1) 抑うつ症状や身体症状を出して嫌なことから回避する「回避性」
2) 非常にプライドが高く、自分は特別な人間だと考えている「自己愛性」
3) 悪いのは上司、職場、家族などだ、と他者に原因を求める「他責性」
とのことです。
実は、現在の精神医学では、新型うつ病は正式な医学用語などではなく、複数の病気が複合・混在した状態と考えられています。そのため、病像(どのような疾患かというイメージ)を捉えづらいのですが、この本では非常に分かりやすく特徴付けて解説されています。これらの特徴は、いわゆる以前から言われている「うつ病」である大うつ病とは異なっています。
まず1) 「回避性」についてですが、抑うつ症状や身体症状をクローズアップして考えると、「心気症」「自律神経失調症」などと言われることがあります。これらは、体に異常はないのですが、発熱や腹痛、頭痛などの症状が出現し、業務につくのを回避します。登校拒否児がこのような症状を起こすことで学校に行かなくて済む状態を作り出す、といったことと似ているそうです。
また、抑うつ症状などの心の症状が出た場合、「抑うつ性障害」「適応障害」などの診断名がつけられることがあります。
2) 「自己愛性」ですが、これはやはり時代的背景と大きく関わりあいが強いそうです。便利な生活環境にあり、我慢や忍耐とは無縁な時代背景、そして過保護な家庭環境などが成因となっているようです。この一面を捉えると、「自己愛性パーソナリティ障害」などと人格障害などと言われることがあります。
3) 「他責性」は、いわゆる一般的に言われているうつ病と大きく異る点です。自分の責任を感じ、自分を責めてしまうことが特徴である「うつ病」とは異なり、新型うつ病では自分を責めるのではなく、上司やその他の人々を責める傾向にあります。
こうした特徴から病像を上手く説明されています。
次に、新型うつ病に対して、どのような対処をとるのか--その対処法についても、休養前、休養中、復職後についても具体的に記載されています。
大きな特徴としては、やはり従来からいわれている「うつ病」とは異なり、「引き継ぎをしっかりとさせる」「社内規則やルール、常識をしっかりと指導する」など、個人の性格などを尊重しつつも指導をしっかりと行っていく必要がある、と指摘しています。また、復職後に関しても、「自分からコミュニケーションをとれる人は少ないため、話しやすい指導者をつける」といった方策をとりつつも、「数ヶ月後は他の社員と変わらずに扱うようにする」といったことを勧めていました。
まさにタイトルの如くですが、「すぐ会社を休む部下に困っている人」に対しては、新型うつ病の理解、そして対処に関して一助になってくれる書籍であると思われます。もちろん、個々での対応といった側面もあり、本の通り上手くいくことばかりではないと思われますが、「新型うつ病」というものの正体が分からずに闇雲に対処を求められるよりは、遥かにイメージを持って対処できる方が良いのではないか、と思われます。
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