「救急患者たらい回し」対策で「断らない病院指定」は果たして有効か?制度としての3つの問題点

急病人を搬送する病院がなかなか決まらず、受診前に待たされる「たらい回し」を防ぐため、埼玉県は受け入れ要請があれば原則断らない、「搬送困難受け入れ病院」の指定を進めているそうです。

こうした病院が受け入れ要請を受けるのは、「消防機関が緊急あるいは重症の疑いがあると判断した患者が、2つ以上の医療機関から受け入れを拒否されたなどの場合」などだそうです。

この指定を受けた病院は、医師や、空床の確保などを目的とし、年最大2,000万円が補助されるそうです。こうした指定が行われるようになった要因としては、埼玉県が2013年に重症の救急搬送患者2万3,105人のうち、受け入れに4回以上の要請が必要だったのは9.4%と、全国平均の3.4%を大きく上回り、全国ワースト2位であったということが背景としてあるようです。

ですが、果たしてこの指定は有効なのか、ということで以下のような観点から、疑問視する意見もあります。

1) 当直医の確保

当直をしている先生方には分かると思いますが、「断らない」というのがどれほど過酷な当直となるのか、ということですね。重症患者がバッティングすることはたびたびあります。

内科当直で、心筋梗塞疑いや脳卒中疑いの患者、急性腹症…様々な患者さんを「すべて受け入れ、1人の当直医が全て対処する」という方式にした場合、どのような地獄絵図になるのか容易に想像がつきます。

その場合、複数の内科系・外科系当直医を用意する、といったことも考えられますが、年最大2,000万円という補助金のみで、どれほど補充できるのか、人員を集められるのか疑問です。

2) 満床の場合はどうする?

これぞ「無理なものは無理」の代表格だと思いますが、ICUなどベッド数、看護スタッフの限られているところが満床の場合、そこでさらに「重症患者をとってください」と言われるのは無理ではないでしょうか。

特に冬場は満床となりやすい時期です。ベッドコントロール上、どうしても無理な場合、引き受けた上で転院先を探す、といったことをやらなければならず、当直医やスタッフの負担は非常に大きいと思います。

3) 「断らない」が誤解される恐れも

上記の指定は、あくまでも「重症患者」に限られます。ですが、一部の患者さんは「どんな病気でも、いつでも断らない」と誤解されるのではないでしょうか。

結果、もし当直医多忙につき、軽傷で2次救急の病院を紹介されるようなケースがあったとしても、「なんで断るんだよ!」とクレームを増やす可能性があるかもしれません。そうしたクレームは職員や医師を疲弊させる結果となり、結果、離職率の上昇を招くかもしれません。

以上のようなことがあり、この指定病院制度は長期で運営可能かどうかということを考えると、やや疑問が残ります。

そもそも、「どんな患者さんでも、24時間365日フリーアクセスで3次救急が受診できる」「どんな患者さんでも、救急車を無料で利用できる」といった状況に無理があるのではないでしょうか。そもそも、こうした受診にまつわる”トリアージ”をしっかりと行い、医療制度そのものを整備しなさない限り、付け焼き刃で全く効果を発揮しないものになるのでは、と懸念されます。

指定された病院で働く常勤医の先生方が、あまり過度な負担を強いられないことを祈るばかりです。

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